小児科医の恋愛事情 ~ 俺を選んでよ…もっと大事にするから ~
彼女とのことを考えないようにすればするほど、その空間は仕事で埋まり、あっという間に時間が過ぎていった。

あえてそうした。
どうしようもなくて。

彼女も、俺が連絡もせずにドアノブにケーキの袋を下げて帰ったことで、察したんだろう。
その教授の存在を、俺が知ってしまったのだと。

「だからだよな・・・・」

ぴたりと、連絡が途絶えた。

いったい、どういうつもりなんだろうか。
何もかも。

俺は彼女を『恋人』だと思っていたけれど、彼女にとって、俺は何だったんだ。
どっちが『恋人』で、どっちが『浮気相手』だよ。

家に向かう帰り道で、段々イラついてくるのが分かった。

俺は、器用に感情を切り替えられるタイプじゃない。
こうなるのが分かっているから。
それが嫌だから、できるだけ考えないようにしていたはずなのに。

「はぁー・・・・」

帰って、また少し飲むか。


「祐一郎」


えっ・・?

マンションの前に差し掛かったところで、彼女に呼び止められる。

なんでだ・・?
どうして、ここに・・?

「こんなところで、何をしてるんだ?」

思わず冷ややかな声が出る。
ダメだ。

「何って・・」

「・・俺に用、無いだろ?」

これ以上話したら、抑えきれない。
頼むから・・帰ってくれ。


「用は無いけど・・帰らない」


は・・?


「帰らない」


「・・勝手に・・すればいい」


俺は彼女に構わず、自分の家に向かった。

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