小児科医の恋愛事情 ~ 俺を選んでよ…もっと大事にするから ~
「私が研修医の時、初めて看取った患者さんが子どもだったんです。
駆け出しで何もできず、話し相手になるか、辛い時に身体をさすってあげるくらいだったのに、それでも何かあれば私を頼ってくれて・・。
彼が旅立った時に決めたんです。ひとりでも多くの子どもを助けると」

「そうか・・。西島くんは、いい医師になるだろうな。この先も楽しみだ」

そう言って神崎先生は俺から視線を外し、何かを考えるように外を眺めている。
どこか寂しそうな横顔が気になった。

「神崎、もしかして西島をスカウトするつもりだったのか? おまえに弟子入りしたら、手術だらけの毎日で結婚できなくなるだろう?」

「それもそうだな。でも西島くんは小児科一筋で、外科に来る気は無さそうだから」

「・・なんだか申し訳ありません」

「いや、いいんだよ。でもいつか、小児外科の珍しい症例があった時には勉強に来るといい」

「はい、ぜひ」

のんびりとした朝食を済ませ、俺はふたりを大学病院まで送り届けた。
神崎先生も同じ大学の卒業生らしく、俺の先輩だったというわけだ。

「じゃ西島、次は・・来週か?」

「はい。今週は向こうで手術と当直が続いてまして」

「そうか・・。時間が取れるようなら連絡をくれ。3人でウイスキーでも飲もう」

俺は会釈して、ふたりが大学病院の建物に入っていくのを見送る。

高浜教授はいつもより少しカジュアルな格好をしていたが、神崎先生は外国製のスーツがとても良く似合っていた。

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