小児科医の恋愛事情 ~ 俺を選んでよ…もっと大事にするから ~
「はぁ・・。もう22時過ぎたし、ヤマは超えたかなー」

ドサッと、大翔はスタッフルームのソファに座り込んだ。
受付の方を見ても、何人かが会計や調剤を待っているくらいだった。

「お疲れ、大翔。大人も結構多かったな」

「ああ、多かった。フツーの会社員だと診療時間内には来れないからな。会社帰りですって人も、まぁまぁいた気がする」

「そんな感じだった。さて・・俺そろそろ戻るよ。大翔も、今のうちに仮眠した方がいいんじゃないか?」

「・・・・」

大翔は黙って俯いた。
その姿を見て、『気弱な大翔』がよみがえる。

「大翔?」

「祐一郎。俺、明日茉祐子に会ってもいいか?」

「えっ」

「こないだ、『しばらく時間を置きたいって伝えたらキレられた』彼女の話したろ? 俺と茉祐子の同級生なんだ。それで・・その・・。茉祐子に相談したくてさ」

そう言われ、俺はダメだとは答えられなかった。
事実かもしれないし、もしかしたら彼女に会うための口実かもしれないし、正直どちらか分からなかったけれど。

俺は一瞬、大翔から視線を外して湧いてきた気持ちを抑えこんだ。

「・・いい状況に向かう方法が、見つかるといいな」

こう答えるので精一杯だった。
『会っていい』とは言いたくなかったから、遠回しに容認した感じだ・・。

「じゃあ、戻るよ。ヘルプが必要なら呼んでくれれば」

俺は救急外来から小児科に戻り、そのまま仮眠室に向かった。
暗い部屋でベッドに横になり、ぼんやりと彼女のことを考え始めたところで睡魔に襲われた。

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