マッド★ハウス
その9
アキラ



「オレもさ、中学の頃から博多とかのライブハウスにはちょくちょく足運んでたけん、ようわかるんやけど…。あの時代はまあ、アマチュアバンドもメジャー人りたいって野心は持ってやりよってたよ。でも、今はモロ、プロデビュー目的っていうか、その早道探してるよ、みんな」

早道か…

「…その中で、赤子ちゃんを含む初代ローラーズのメンバー6人は、あのロック界の大御所から合格の切符を切ってもらって、ココのステージに立てたんよ。まあ、ギャラはズズメの涙だったろうけんね。でも、彼らはそれ以上に、マッドハウス以外では演奏できない専属契約に縛られてた。そのはがゆさっていうか、ある種の屈折した内面のもてあますパワーとか…、そう言う意識とロック界の大物の目にもとまったという両面が、ガチッとぶつかったとね。だからだろとう思うよ、ローラーズがココで他のアマチュアバンドと異質の音出せよるのは…」

「…」

...


「でもね、アキラ…。ローラーズにはもう一つ、ここでのステージだから到達し得たもんがありよるんよ」

「それは…、それは、なんなんですか!」

「建田さんは、初代ローラーズにこう言うとったそうだ。”ココはギターやドラムスの大音量という騒音で、周辺住人を追い出すのが目的の小屋なんだ。遠慮いらねえから、余分なこと考えねえで思いっきりやれ!”とね…」

「…要は人の迷惑や目を気にせず、大声、轟音構わず、やりたい放題でやっていいということだったんですね?」

「ああ…。これさ、結構ありえないと思うよ、普通は。いくらガンガンのロックと言ったって、人の迷惑は考えないかんよってなるけん。当然ながら(苦笑)」

「はい…」

「…それ、無視でいいからってね…。言うてみれば、ココの初っ端からロックをセーブなしで解放可ってことやわ。赤子ちゃん達はさ、そんなモチベーションの中でココでのステージを重ねてきたんだよ。そういうのって、おそらく今のプロだってさ、ほとんど未体験ゾーンだと思うよ。だから、本来なら無意識に抑えをきかしてしまうラインまで行けちゃってたんだろうね。そこを解禁出来ちゃったってことやろ。だからマッドハウスでのローラーズには、どこ行っても聞けない音が体感できるんよ」

「なるほど…」

「はは…、そう言うアキラも、ココのお客以上にわかっちゃってるのかもね(笑)」

タカさんの解説はなんとなくだが、全部理解できた気がした…


...


「…タカさーん、お疲れさまー!喉乾いちゃたんで、一杯、お願いしますよ」

「ああ、赤子ちゃん、お疲れ様。…アキラ、天敵がきよったよ(苦笑)」

ふう…、あの人、まだいたのかよ…(ため息)

知ってれば今日は帰っていたのに…




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