マッド★ハウス
最後の地権者/その3
アキラ


「ちょっと待って下さいよ!アキラは部外者なんだから、地上げの地権者交渉は筋違いでしょ?」

タカさんが異議を唱えてくれた

「タカさんこそ、部外者なんだし、余分な口挟まないっでくれます?」

間宮さんも即、反論だ

「タカ、そう固く考えるほどのことでもねえよ。寿司持っていくだけだ、今日は。年末のあいさつだよ」

「しかしですよ…」

タカさんは食い下がってくれたが、オレは行くとこにした

「適当に切り上げちゃえよ。寒いから風邪ひかないようにな…」

いつも気をつかってくれて、タカさんには感謝してる

「アキラ、まあ2,3時間玄関で粘れば、入れてくれるかもよ。この寒空ならさ」

間宮さんがそう言うと、北原さんも続いた

「2,3時間と言わず、年明けるまで座り込んでこい、ははは…」

「おお、がんばれ!年明けてもここで待っててやるからよー」

会議室のみんなは笑いながら、オレを”激励”してる

まあ、ここにいるより気が楽だし…

既にココの借金は終わってるが、雑用は慣れっこだ




泉さんの話は、浅田さんあたりから色々聞かされてた

今までも硬軟、さまざま手を尽くしてきたと…

で…、少々強硬姿勢に出た時は、役所や警察がすぐ来たという

法的手段も心得てて、なにしろやたらなことできない

加えて、左派政党の議員や市民団体ともパイプがあるって

一度、色仕掛けで試したこともあったらしい

その時は誘惑に乗ったふりして、こっちの仕業見破っちゃってて

それで、週刊誌にリークして記事になっちゃたんだよね

”悪徳地上げの恐るべき実態”とかって内容で…

さすがの建田さんもしょげてたらしい

建田組の親筋である相和会本部からは、大目玉喰らったって言ってたし

以来、打つ手がなく、完全に攻めあぐねてる状態が続いているという

ふう…、そんな要塞みたいなおばさんにこれからこのオレがかよ…

無理だって

やっぱ…


...


さて…、泉家の玄関についた

部屋の電気はついてるし、自転車があるな

泉典子は在宅中の可能性大だ

オレはピンポンを鳴らし、寿司の大皿を両手で抱えた

「どなたさんですか?」

声からすると、高齢のお母さんではなく、典子さんのようだ

「マッドハウスのもんですが、年末のあいさつに伺いました」

さあ、どんなリアクションがあるやら…





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