マッド★ハウス
その7
アキラ


「…アキラも知っとる通り、もともと繊維工場だったココはさ、周辺の地上げ事業の住人立ち退きを狙ってライブハウスになった訳だけど…」

うん…、何でも相和会幹部の建田さんがこの地区の地上げに取り組み、まずここの工場を買い上げた後、周辺の住宅に居住する住人を立ち退かせるために、工場をライブハウスに改装したそうだ

防音施工をせずに…

そして、ココでロックバンドが演奏すれば、近隣居住者はその轟音に根を上げて立ち退き交渉を後押しできるという読みだったらしいいや

その戦略は功を奏し、すでに対象地権者の住人のうち、半分が立ち退き乃至はその前提で交渉段階に入っているとか

...


「オーナーの建田さんはやくざだけど、商才のある人だよ。ここだって、周辺の立ち退き目的でライブハウスやってるって言っても、ちゃんと利益は回しとるもんね。特にここ最近はさ、えらい売り上げ伸びてるようなこと言っとったわ、浅田君なんも…」

「そうですか…。まあ、自分なんかが見ても、いつもソールドアウトですもんね」

「うん。今、世間はバンドブームってこともあるけど、それだけじゃないよ。ここに来るお客さんは、ここでのローラーズを聴きに来るんだ。見届けにくるんだ」

「…」

...


「…マッドハウスが誕生してもうすぐ2年…、初代ローラーズのメンバーで残ってるのは赤子ちゃんだけやね。あとはみんな、プロデビューしとるし。まあ、あの子もプロは狙ろうとるだろうけど。でも、マッドハウスを出てプロになったら、ここと一緒の演奏はできない」

「それは何でです⁉」

俺は思わず半身カウンター越しに、腰を上げていた

「はは…、アキラはもう気づいてるようやね。…まあ、今日はじっくり話すさ。その前に、マティーニの”次”聞かせてくれ、アキラ」

タカさんは2級建築士事務所を経営しながら、好きなロックとカクテルに囲まれてたくて、ココにたどり着いたらしい

同じココへの”漂着”でも、このオレとはおよそ別物だよ…




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