マッド★ハウス
その8
アキラ



タカさんのお言葉にはいつも甘え放題だが、マティーニの次はマルガリータを頼んだ

「…アキラ、今のうち言うとこうが、遠くないうち、このマッドハウスはロックの聖地になりよる。いや、実際はもうその域かもね」

「ロックの聖地ですか…」

「そうよね。オレの故郷の久留米もおんなじやった。口ではよう言えんが、一つは風土。どっぷりとね…、はは…、この感覚やね…(笑)」

タカさんは生まれも育ちも、九州久留米市某所だったそうだ

...


九州、めんたいロック…

タカさんが言うには、70年代初頭から今日にかけてのアマチュアバンドにおけるムーブメントは、まさに北九州発という一面が強かったということだった

要は、このコテコテのロック好き、カクテル好きの九州久留米産男児の五感には、東京埼玉の都県境に位置するこのマッドハウスには、その”臭い”が香ると…

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「…建田さんはさ、自分はヤクザなもんで、ここで轟音響かせて演奏させるロックバンドは、当面メジャーは無理だと悟っててね。要は、アマチュアしかないとね。そこで、あの人は通り一遍の選択はしなかったんよ。仮にそうしてたら、たぶんここはそれこそ、どこにでもあるライブハウスに収まっとったやろうね」

「そうか…、そこでマッドハウス専属バンドって発想だったのか…」

「そういうこと。建田さんのすごいとこはそこだよ。ロックとかライブハウスなんかには無縁の経済ヤクザがね、直感のひらめきで専属バンドだってね…。それで、あの人が募集かけてロードローラーズが結成されたんだよな」

このローラーズ募集には、全国から大勢のバンドが集まったらしい

...


「建田さん、審査員にロック界の大御所、石田ユージさんを引っ張り出すことに成功したよ。人を介してだが、そのプロセスは見事だったらしい。やくざ色をなくせるのはあなたしかいないとか、業界の常識を破る画期的な実験にはあなたがふさわしいとかって…。はは…、すごい営業トークやね、コレ」

ローラーズ生みの親は、石田コージさんだったって訳か…

と言うことは、赤子さんたちは、ロックの大御所から目をかけられたという意識の元に、このマッドハスでバンドデビューを果たせたってことなのかな…

しかも、この業界では前例のない、一ホール専属契約制を承知で…




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