勇気を翼に込めて。
嫌いな楽器
嫌いな楽器
「津田さんのお家、一人暮らしなんですね。」
「グループホームなんです。アパートタイプの一人暮らしなの。」
「へえ。」
「友達も来るんですよ。」
「男?」
「女、私に大事な男の人、お医者さんしかいないですよ。」
「お父さんもいるでしょ。」
お医者さんに笑顔が見られた。よかった、機嫌悪いの治ったみたい。
実はこの前から何かをお医者さんは気にしていて、私はそれに気がつけない。
だから、なんで不機嫌そうにしてるのかがまだわからないのだけど機嫌が治ったみたいでよかった。
「津田さんの誕生日って昨日じゃないですか?」
「え?」
「お誕生日おめでとうございます。」
実は、今日先生と会う約束していた時点で淡い期待はしてたんだけど、
「昨日は誰と過ごしたんですか。」
これをさっきから聞かれてた。なんでだろ、家族といたのに。
「もしかして、一緒にいたかったですか?」「はい。」
「先生、平日休みとったら会えたのに。」
「ずるい。」
ずるいも何も、誕生日知ってたなら自分から休み取れるよって言ったらいいのに。知らないよ。
「先生、可愛い。」
不貞腐れるお子ちゃまな先生がさらに不機嫌になる。
「20歳ですよ、とても大事な日ですよ。」
「お医者さんたちには大事ですね。元々、成人の日だったから」
私の誕生日は昔の成人の日。だからお医者さんもお母さんたちもみんなこの日が特別な日なのだ。
「そう言う意味じゃなくて。
好きな人の、誕生日。特別な日なのは当たり前じゃないですか。」
目を逸らさずに言ってくるから、つい恥ずかしくて目を逸らしたくなるけど、すごく嬉しいから自然と笑顔になる。
「ありがとう。嬉しいです。」
「明日、先生、朝から会議なんです。
エネルギー補給しに来ました。津田さんに会ったら頑張れるから。」
え、私のためじゃないの?突っ込みたくなるけど心配だ。お医者さん疲れて私と会えなくなったらどうしよう。
先生がそう言うからつい、私も。
「お医者さんが、疲れてヘトヘトになったらいつでもぎゅーしてあげます。」
なんて言っちゃったから。
「へえ、嬉しいなあ。」
「先生。疲れたら津田さんの胸に来るね。」
先生が悪魔の笑い。ニヤリと微笑む。
胸にくるってなんかドキドキする。
抱きしめてあげるよって、本当は私、お医者さんに言ってほしかったことなんだけどなあ。
いつの間にかして欲しいことがしてあげたいことになってることに気がつく。
「先生、誕生日プレゼント持ってきたんです。」
「え!」
それらしい大きさの荷物を何も持ってないからびっくりする。
「シュシュ」
ズボンのポケットから取り出すぶっきらぼうな渡し方でも、すごく嬉しい。
誕生日プレゼント持ってきてくれたってことは、やっぱり私と誕生日に一緒にいたかったってことだよね。
「来年は一緒にいようね。」
先生の手を握って、
「ねえ、シュシュ付けて。」
と上目遣いでおねだりをする。今回のはわざとじゃなくて身長差と角度の問題だ。でもこの前の様子だと、ひょっとしてお医者さん。。。
喜んでる?
「っ、それやめてよ、不穏になるから。」
「不穏?」
ショックだった。不穏、なんだ。
「ドキドキして落ち着かない状態。」
付け足す声に吐息が混ざる。
「抑えたくなくなるの、津田さん無防備だから。先生は大人だから我慢してるけど。」
「してないじゃん、この前キスしたじゃん。」
「キスしたら先生だけのものになってくれるかな、って。
シール剥がしちゃったみたいだし。また、つけようかな。」
「何を?」
先生の、って印。
あれかな、キスマークってやつ?
「きす、していい?」
「だめ。」
だめだよ、キスマークなんてつけたら私ドキドキが止まらない。
「昨日、津田さんに会えなくて、寂しかったんです。」
「うん。」
「先生、津田さんのお家きて嬉しいから。」
「うん。」
「キスさせて???」
「……。」
それ、私の丸パクリじゃん。顔から火が出る。
私は以前、お医者さんにぎゅーしてと言ったことがある。
「お医者さんはかっこいいからぎゅーして欲しい。」
「津田さん、もう高校生じゃないですか。」
「うん。」
「高校生に抱きつくとセクハラなんですよ。」
「うん。」
「気持ちだけね。」
「……。」
あの時も、私は打ち負かされてぎゅーしてもらえなかった。だから、つい意地を張って
「高校卒業したらぎゅーして!」って強引なお願いを押し付けて去ったんだ。
学校に行けなくなってから何かを自慢することができなくなって不安で。お医者さんに会いに行けなくなった。
大人の病院へ本格的に通院が始まる前に、私は学校に行けなくなった。
だから、もう先生に会う資格なんて、ないんだと思ってた。今までは。
「津田さんのお家、一人暮らしなんですね。」
「グループホームなんです。アパートタイプの一人暮らしなの。」
「へえ。」
「友達も来るんですよ。」
「男?」
「女、私に大事な男の人、お医者さんしかいないですよ。」
「お父さんもいるでしょ。」
お医者さんに笑顔が見られた。よかった、機嫌悪いの治ったみたい。
実はこの前から何かをお医者さんは気にしていて、私はそれに気がつけない。
だから、なんで不機嫌そうにしてるのかがまだわからないのだけど機嫌が治ったみたいでよかった。
「津田さんの誕生日って昨日じゃないですか?」
「え?」
「お誕生日おめでとうございます。」
実は、今日先生と会う約束していた時点で淡い期待はしてたんだけど、
「昨日は誰と過ごしたんですか。」
これをさっきから聞かれてた。なんでだろ、家族といたのに。
「もしかして、一緒にいたかったですか?」「はい。」
「先生、平日休みとったら会えたのに。」
「ずるい。」
ずるいも何も、誕生日知ってたなら自分から休み取れるよって言ったらいいのに。知らないよ。
「先生、可愛い。」
不貞腐れるお子ちゃまな先生がさらに不機嫌になる。
「20歳ですよ、とても大事な日ですよ。」
「お医者さんたちには大事ですね。元々、成人の日だったから」
私の誕生日は昔の成人の日。だからお医者さんもお母さんたちもみんなこの日が特別な日なのだ。
「そう言う意味じゃなくて。
好きな人の、誕生日。特別な日なのは当たり前じゃないですか。」
目を逸らさずに言ってくるから、つい恥ずかしくて目を逸らしたくなるけど、すごく嬉しいから自然と笑顔になる。
「ありがとう。嬉しいです。」
「明日、先生、朝から会議なんです。
エネルギー補給しに来ました。津田さんに会ったら頑張れるから。」
え、私のためじゃないの?突っ込みたくなるけど心配だ。お医者さん疲れて私と会えなくなったらどうしよう。
先生がそう言うからつい、私も。
「お医者さんが、疲れてヘトヘトになったらいつでもぎゅーしてあげます。」
なんて言っちゃったから。
「へえ、嬉しいなあ。」
「先生。疲れたら津田さんの胸に来るね。」
先生が悪魔の笑い。ニヤリと微笑む。
胸にくるってなんかドキドキする。
抱きしめてあげるよって、本当は私、お医者さんに言ってほしかったことなんだけどなあ。
いつの間にかして欲しいことがしてあげたいことになってることに気がつく。
「先生、誕生日プレゼント持ってきたんです。」
「え!」
それらしい大きさの荷物を何も持ってないからびっくりする。
「シュシュ」
ズボンのポケットから取り出すぶっきらぼうな渡し方でも、すごく嬉しい。
誕生日プレゼント持ってきてくれたってことは、やっぱり私と誕生日に一緒にいたかったってことだよね。
「来年は一緒にいようね。」
先生の手を握って、
「ねえ、シュシュ付けて。」
と上目遣いでおねだりをする。今回のはわざとじゃなくて身長差と角度の問題だ。でもこの前の様子だと、ひょっとしてお医者さん。。。
喜んでる?
「っ、それやめてよ、不穏になるから。」
「不穏?」
ショックだった。不穏、なんだ。
「ドキドキして落ち着かない状態。」
付け足す声に吐息が混ざる。
「抑えたくなくなるの、津田さん無防備だから。先生は大人だから我慢してるけど。」
「してないじゃん、この前キスしたじゃん。」
「キスしたら先生だけのものになってくれるかな、って。
シール剥がしちゃったみたいだし。また、つけようかな。」
「何を?」
先生の、って印。
あれかな、キスマークってやつ?
「きす、していい?」
「だめ。」
だめだよ、キスマークなんてつけたら私ドキドキが止まらない。
「昨日、津田さんに会えなくて、寂しかったんです。」
「うん。」
「先生、津田さんのお家きて嬉しいから。」
「うん。」
「キスさせて???」
「……。」
それ、私の丸パクリじゃん。顔から火が出る。
私は以前、お医者さんにぎゅーしてと言ったことがある。
「お医者さんはかっこいいからぎゅーして欲しい。」
「津田さん、もう高校生じゃないですか。」
「うん。」
「高校生に抱きつくとセクハラなんですよ。」
「うん。」
「気持ちだけね。」
「……。」
あの時も、私は打ち負かされてぎゅーしてもらえなかった。だから、つい意地を張って
「高校卒業したらぎゅーして!」って強引なお願いを押し付けて去ったんだ。
学校に行けなくなってから何かを自慢することができなくなって不安で。お医者さんに会いに行けなくなった。
大人の病院へ本格的に通院が始まる前に、私は学校に行けなくなった。
だから、もう先生に会う資格なんて、ないんだと思ってた。今までは。