君とする恋は苦くて甘い
「……ごめん。帰るね」
もうこれ以上、静寂に耐えきれなくなって、首元に巻いていたタオルをテーブルに置いた。
「タオルとカフェオレありがとね。じゃあ……さよなら」
その辺に置いていた鞄を持ち、その場から逃げるように急いでリビングを出た。
靴を履いて玄関のドアに手をかけようとした寸前で、パシッと反対側の腕を掴まれた。
「待てよ!」
初めて聞くドスが効いたコウの低い声。
「俺の気持ちなんて聞かずに逃げるのかよ」
後ろにいるコウを振り返らずに答える。
できるだけ平静を装うけれど、声は僅かに震えた。
「……だって、コウは好きな人いるんでしょ?」
「それ、誰に聞いた?」
「コウと同じ高校の女子たちが話してるのが聞こえたの。『雨森くんが告白を断っているのは好きな人がいるから』だって」
「それで、お前、雨の中、傘も差さずに走りながら泣いていたのかよ?」
……そうだよ。
でも、コウの前で認めるわけにはいかない。