この契約結婚、もうお断りしません~半年限定の結婚生活、嫌われ新妻は呪われ侯爵に溺愛される~
そもそも、どうして私はやり直しているのだろうか。
「どうして……」
「……ごめんなさい。契約結婚でいいですから、そばに置いてください」
「そんなの、君に一つも得なことがない。ましてや俺は……」
図書室は静まり返っている。
二人一緒にいたときは、あんなにも笑い声であふれていたこの空間は、静かすぎて空恐ろしいくらいだ。
「好きなんです。ディル様のこと……。だから、半年間だけ、思い出が欲しいです」
「……半年間だけ?」
「その後は、離婚しましょう。白い結婚だったと公表すれば、王国法では結婚は白紙に戻ります。もちろん、資金援助した分は、サーベラス領が立ち直ったら父に返してくれればいいですから」
怪訝な顔をしたディル様に、精一杯微笑みかける。
本当に大好きだ、と言うことを今さらになって思い知らされる。
やり直す前、ディル様を失った悲しみと苦しみは、その後襲いかかった呪いの苦しみよりも何倍も辛かった。
「大好きです。ディル様……。少しの間でいいから、私をディル様の奥さんにして貰えませんか?」
「――――ルシェは、あいかわらずだな」
次の瞬間、強く抱きしめられていた。
きっと、拒絶されるのだと思っていたのに……。
「ルシェは、きっと後悔する」
「後悔なんてしませんよ?」
後悔なら、やり直し前にし続けたから。
できる限りのことをするって決めたから。
「ルシェがそんなこと言うから、せっかくの決心が完全に崩れてしまった」
「え? 崩れ……?」
性急に落ちてきた口づけは、あの日、裏庭で交わされた触れるだけのものと違い、濃厚で甘い。
「覚悟して、半年間」
「え、ええ?」
その日から、なぜかディル様からの溺愛の日々が始まってしまうのだった。
嫌われ新妻になるのだと、信じて疑っていなかった私の混乱をよそに。