この契約結婚、もうお断りしません~半年限定の結婚生活、嫌われ新妻は呪われ侯爵に溺愛される~
「食事はまだ?」
「もちろん、待っていました」
「そう、可愛い」
「っ、あの……。そういうの、結構ですから」
差し出された手を取れば、温かくて涙がこぼれ落ちそうになる。
残念なことに、今日もディル様の心臓あたりには、黒っぽい蔦みたいな呪いがうごめいている。
そっと、繋いでいない方の手を胸元に差し伸べてみると、明らかに避けられた。
やはり、嫌われているらしい。
それなら、こんなに優しくしないで欲しい。
でも、半年間だけ思い出が欲しいと言ったのは私だ。だから、そんなのは贅沢で……。
「美味しそうだね」
「私が作りましたので、味の保証は出来ませんが」
「なぜ」
「料理人が、急に体調を崩したのです」
「……そう」
資金難が続いていたサーベラス侯爵家には、最低限の使用人しかいない。
けれど、これは天災による一時的なものだ。
一部の資金しか渡さなかった前回も、半年後にはサーベラス侯爵家は、立ち直っていたのだから。
それはひとえに、ディル様の努力と才能なのだろう。
つまり、完全に私のわがままなのだ、この結婚は。
だから、なんとしても、ディル様の呪いを……。
「美味しいよ」
「……そうですか?」
ディル様の好みは、学生時代に調べ上げた。
そして、いつか料理を振る舞いたいと練習を重ねた。
こんな風に、叶うことになるとは思ってもみなかった。
「うん、優しい味がする。まるで、ルシェみたいだ」
(そういうのは、好きな人に言ってあげて下さい)
その言葉が喉まで出かかってしまったので、私は慌ててそれをスープで流し込んだのだった。