この契約結婚、もうお断りしません~半年限定の結婚生活、嫌われ新妻は呪われ侯爵に溺愛される~
「少し、元気がなかったから気になって」
「え? 元気ですよ?」
「そう……? いや、本当は結婚したくなかったのに、もしかしてサーベラス領を助けるために結婚してくれたんじゃないかと……。無理しているんじゃないかと」
「……ディル様」
確かに、毎日気軽に好きだと告げていた日々に比べて、私はディル様に好きだと言えていない。
だから、元気がないと思われたのだろうか……。
ディル様は、私に結婚を断って欲しいと言った。
それなのに、無理に妻になったりして、許して貰えないんじゃないか、そう思うと今まで通りにするのは難しかった。
「――――でも、好きです」
「え?」
「好きです。期間限定だとしても、一緒にいられて幸せです」
「…………どうして」
ディル様に、私が呪いについて知っていることを気づかれてはいけない。
そもそも、ディル様は自分が呪いに蝕まれていることに気がついているのだろうか。
そばに寄って、そっとその体を抱きしめる。
(気がつかないはずない。徐々に心臓が握りつぶされるあの感覚に、気がつかないはず……)
ディル様の心臓に絡みつく呪い。
それは、黒い蔦のように今日もうごめいている。
ディル様は、何も言わないし、苦しそうなそぶりも見せない。
でも、時々胸の鼓動が乱れる感覚に、気がつかないはずがない。
(ああ、幸せな数日を満喫してしまった。どうして、ディル様が急にこんな風な態度に変わったのかは、いまだに不思議で仕方ないけれど)