この契約結婚、もうお断りしません~半年限定の結婚生活、嫌われ新妻は呪われ侯爵に溺愛される~
明らかに苦笑しながら、ディル様はクロワッサンを私の口に押し込んだ。
「食べてもらうために作った……」
「ハフ……おいしいです」
少しだけ焦げたクロワッサンは、涙が出そうなほどおいしい。
こんなおいしくて嬉しい朝食は、生まれて初めてだ。
「――――ルシェ、今日はどこに行くの?」
先に食事を終えて、ブラックコーヒーを飲みながら新聞を広げたディル様。
そんな姿すら、ものすごく絵になって、ずっと見つめていたくなる。
けれど、その質問は答えづらい。
呪いについて私が調べていることが分かったら、ましてや私に呪いを移す方法を調べているなんて気づかれたら、ディル様に止められてしまうのは間違いない。
「……神殿に」
「奉仕活動か何か?」
「ええ、そ、そうです」
神殿に行くのは事実だ。でも、いつも参加していた奉仕活動のためじゃない。
もちろん、サーベラス侯爵家の図書室は蔵書にあふれているけれど、私が調べたいのはディル様を蝕む呪いについてだ……。
「ディル様、今日はいつ頃お帰りになるのですか?」
「うーん。そうだな、少し遅くなりそうだ」
「そうですか。では、夕食を作って待っていますね?」
「…………」
「ディル様?」
「あ、そうだね。待っていて」