この契約結婚、もうお断りしません~半年限定の結婚生活、嫌われ新妻は呪われ侯爵に溺愛される~
そう言って笑ったディル様は、ほんの少し思案顔だ。
ずっと見てきたから分かる。無表情だと周囲に言われるディル様の感情の変化は意外にも分かりやすい。
(ずっと、見てきたもの……)
新聞を几帳面にたたんで、ディル様は立ち上がった。
「そろそろ行かないと……。あ、そうそう。申し訳ないけれど、王宮の夜会に夫婦で参加するように招待状が届いている」
「……夜会、ですか」
参加したことがないわけではない。
もちろん、実家であるアインズ伯爵家では、それなりの教育も受けてきた。
ダンスだって得意だ。
でも、気が乗らない。だって、私はディル様との結婚をお金で買った悪女と言われている。
ディル様は、何も言わないし、その噂が私の耳に入らないように配慮してくれているけれど、学生時代の友人から聞いてしまった。
今、その友人は神殿で聖女をしている。
今日は、その伝で神殿の図書室を見せてもらう約束になっているのだ。
「……気が乗らないなら、断るよ」
「いいえ! もちろん参加したいです。ディル様と夜会に行けるなんて夢みたいです」
それは、半分は本心で、半分はお断りした時のディル様の立場を考えてのことだった。
侯爵家夫人となった私が、この数日間何のお誘いも受けていない、そのことからも、できる限り私が夜会に参加しなくてもいいようにディル様が調整してくれていたことが分かる。
どうしても、夫婦で参加しなくてはいけない夜会だから、ディル様は誘ってくれたに違いない。
それなら、できる限り喜んでいるそぶりを見せなくては。
実際、夜会で着飾ったディル様を間近で見ることが出来るのは、人生最高の幸せに違いない。
そう思えば、自然と頬は緩み、私は笑顔になっていたのだった。