この契約結婚、もうお断りしません~半年限定の結婚生活、嫌われ新妻は呪われ侯爵に溺愛される~
Aクラスを学業では二番の成績で卒業した、裕福な伯爵家の長女。
けれど私は、誰かがそんな風に自分に興味を持つなんて思ってもみなかった。
お父様の執務室の机を埋め尽くしてしまった手紙の山に、とても驚いた記憶がある。
「学生時代だって、全くもてなかったのに……」
それは、「ルシェがディル様だけを追いかけていたから」だと私のことを心配して会いに来てくれたクラスメートは呆れたように言った。
私とディル様との結婚が破談になったと聞いて、心配して会いに来てくれたかつてのクラスメート。
すでに、私たちの結婚話は破談になって数ヶ月経っていた。
それでも、結局私は、届いた婚約申し込みの手紙の封を一通たりとも開けることは出来なかった。
そうしているうちに届いたディル様の訃報。
(忘れられるはずがない……)
王立学園で過ごす時間は、ディル様にとって唯一の自由時間だったのだ。
そんな大切な時間につきまとっていた私にも、ディル様は優しかった。
「ディル様は、いつだって、前を向いていた」
呪いにむしばまれたりしなければ、きっとディル様の代で侯爵家は大きく発展したに違いない。
「……私もそろそろ出掛けるわ」
「護衛をお連れください」
「大げさだわ。神殿で奉仕活動をして、学生時代の友人に会ってくるだけよ?」
「……旦那様は、必ず護衛をつけるようにと。それから差し支えなければ、ご友人がどなたか伺っても?」
「……聖女、ローザリア様」
少しだけ、執事バールさんの表情が曇ったのは気のせいだったのだろうか。
結局、護衛をつけられた私は、神殿へと足を向けたのだった。