この契約結婚、もうお断りしません~半年限定の結婚生活、嫌われ新妻は呪われ侯爵に溺愛される~
入学式 〜ディルside〜
* * *
桃色の花びらが散る美しい道。
レンガ造りの壁に囲まれた王立学園の入学式に、俺は一人参加していた。
新入生なのだろう、周囲の学生たちは、家族とともに誰もが笑顔だ。
そんな中、ふと見れば、一人の少女が父親に連れられて、満面の笑みで校門をくぐるところだった。
幸せそうなその姿に、うらやましいという気持ちよりも、なぜか周囲の時間がゆっくり流れるような錯覚とともに目を奪われる。
だが、それも一瞬だった。
気を取り直し、入学式の始まり、俺は段上に上がった。
首席入学者は新入生代表として挨拶をする。誰も聞きに来ていないのに、こんな場所での挨拶に何の意味があるだろう。
「どうか、これから新入生一同、よろしくお願いします」
そんな思いは、途中で消えてしまった。
締めくくられた言葉。
気がついていた、興味を隠すこともせずに、緑色の瞳が、穴が空くほどこちらを見つめていたことに。