この契約結婚、もうお断りしません~半年限定の結婚生活、嫌われ新妻は呪われ侯爵に溺愛される~

炎の中に現れた人は


 気がついたときには、もう手遅れなほどに火の手が迫っていた。
 扉の向こうは、灼熱だろう。

「……うそ、ここは窓もないのに」

 ジリジリと下がる。
 薄暗い図書室は、蔵書を保護するために日光が入らない造りになっている。
 手前の扉以外に、逃げる場所はない。

「ディル様……」

 このまま焼け死んでしまうかもしれないという恐怖。
 でも、それよりも、このまま私が死んでしまったら、ディル様の呪いは、どうなるのだろうという恐怖のほうが強い。

 あの日、冷たい雨の中で眺めた光景が心臓を締め上げる。
 あんな思いをもう一度するくらいなら、このままいっそ……。
 煙が入り込んできたこともあり、目がしみて涙がこぼれる。

 ここまで燃え広がってしまったのだ、きっと誰も助けになんて来ないだろう。
 古い床に、先ほど手にした本を抱えたまま膝をつく。

 その時、ものすごい音を立てて、扉が吹き飛んだ。

「……ルシェ!!」
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