この契約結婚、もうお断りしません~半年限定の結婚生活、嫌われ新妻は呪われ侯爵に溺愛される~

 魔法と得意とするディル様は、あの場面で無傷で私を連れ出すことが出来たはずだ。
 もしかしたら、私はやけどしたかもしれないけれど、包まれて抱き上げられていたのだ、炎の中走っていたディル様ほど傷つくことはなかっただろう。

「……それは、無理だ」
「え? なぜですか」
「ルシェが俺の前で傷つくなんて……。耐えられない」

 その瞬間、私の両目からは大粒の涙がこぼれ落ちる。
 もしかしたら、そうなのではないかと思い始めていたことが、事実としか思えなくなってくる。

「……ディル様は、私のこと、本当に好きなんですね」
「――ずっと、そう言っている」

 あの時も、今回も、聞くことができなかった事を聞かなくてはならない。
 そうでなければ、私はきっと前に進めない。

「では、どうして、結婚を断って欲しいなんて、言ったのですか?」

 それは、怖くて聞けなかった質問だ。
 卒業式直前、子どもみたいな軽いキスを交わした日。
 卒業後に、私に「結婚して欲しい」と伝えてくれた言葉。

 あんなに好きだと伝えてくれた態度と言葉が、否定されてしまうのが怖くて。

 でもディル様は、間違いなく知っている。
 そのことを知っていたからこそ……。
 きっと、自分の命を後回しにして、私を助けようとしたのだ。
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