この契約結婚、もうお断りしません~半年限定の結婚生活、嫌われ新妻は呪われ侯爵に溺愛される~
学生時代の二人 ~ディルside~
* * *
ルシェがAクラスに編入してから、クラスの雰囲気はすっかり華やかなものに変わってしまった。
いつでも人気者の彼女。
だが、二年生になって、彼女が無事にAクラスに残留した時、誰よりも一番安堵したのは、俺だったことは今になって思えば否めない。
あれは、桃色の花が全て散ってしまった暖かな日だった。
「おはようございます。ディル様! 好きです!」
いつもよりも、彼女が輝いて見えたのは、晩春の日差しのせいなのだろうか。
「…………好き」
「…………あのさ」
「は、はい! どんなことでも命じてください!!」
嬉しそうなその声に、クラスメートが全員こちらを振り返ったことなど、きっと彼女は気がついていない。
でも、彼女がそんなことを言うのは俺だけなのだと、密かに自慢したくもなる。
「……周囲に誤解されるからやめて」
彼女を前にすると、素直になれない。
それでいて、彼女に近づく人間を必死になって排除する。
相容れない感情に、いつも翻弄されていた。