この契約結婚、もうお断りしません~半年限定の結婚生活、嫌われ新妻は呪われ侯爵に溺愛される~
「こ、これは……」
「うちの家宝」
「えぇ!? 何でそんな大切な物を」
「何言っているの? ルシェの物だ。侯爵家の奥様?」
そうなのだろうか。いや、そんなはずない。
そもそも、私たちは白い結婚で……。あと五ヶ月しかない。
「持って行って。全部ルシェの物だ」
「……私は、身一つでもいいのでディル様だけが欲しいです」
「光栄だな」
「好きです」
「でも、きっと俺のほうが何倍も……」
そんなことはない。そう言おうとしたのに、あまりにディル様の視線が真剣だから言いそびれてしまった。
「行こうか……。遅刻するわけにはいかない」
「そ、そうですね」
「緊張している?」
「噂の悪女ですので」
その言葉を告げると、軽くディル様が目を見開いた。
この際だから、ハッキリしておこう。私は、弱くない。
「大丈夫です。堂々と隣に立ちます。見せつけちゃいましょう!」
「――――ごめん。俺のせいだ」
「悪いと思うなら、今夜は」
それは、私からの初めての口づけだ。
(ずっと一緒にいて下さい)
本当に好きすぎて、今日も泣いてしまいそうだ。
せっかく、使用人たち総出で綺麗にしてくれたのに、涙で台無しに出来ないから、なんとか耐えるけれど。
「本当に好きで、好きで、好きです」
「――――うん。でも、足りない。もっと」
子どもみたいな口づけしか出来ない私に、落ちてきたのはちょっと濃厚な口づけだ。
本当に、敵わないな。そう思いながら、私はそっと目を閉じる。
ドレスを着て王子様とお城に行くのを夢見ていた時期がある。
叶ってしまったな……。そんなことをふと思った。