この契約結婚、もうお断りしません~半年限定の結婚生活、嫌われ新妻は呪われ侯爵に溺愛される~
解けない魔法
* * *
「ところで、どうしてそれを持ってきたんだ?」
もう、すでになくてはならない存在になったへしゃげたクマのぬいぐるみを私は抱きしめる。
揺れる馬車の中、向かい合って座る私たち。
少しだけ慣れたけれど、夜会に行く以上に緊張するのは……。
「ディル様と、こんなに狭い空間に二人きりなんですよ? 緊張するなってほうが難しいです」
「…………」
目の前のディル様が、ものすごく色気がある、それでいて意地悪そうな笑みを見せる。
そして、私の横に移動してくると、なぜか膝の上に私を横抱きにした。
「わ! わわ!?」
ギュウッと抱きしめられて、心臓が止まりそうになる。
最高級の紅茶みたいな香りがするディル様は、香りまでイケメンだ。
「……近づいてきたと思って手を伸ばすと離れていってしまう」
「ディル様?」
「人の気持ちも知らないで」