この契約結婚、もうお断りしません~半年限定の結婚生活、嫌われ新妻は呪われ侯爵に溺愛される~
ディル様に背中を向けて、私のお父様が待つ応接室に向かう。
前回の私は、ここで諦めてしまった。
でも、そのことをどれだけ後悔したことか。
(私の恋が叶わなかったことは、悲しかったけれど、それは仕方がない。でも、このままでは、ディル様は、また……)
ディル様は、呪われていた。
そのことを知らなかった私は、なんて愚かだったのだろう。
半年後に、事実を知った時、すでにディル様はこの世にいなかった。
その死が呪いによるものだと知った時には全てが遅かった。遅すぎた。
(……私に出来ることは、なかったのだろうか)
ディル様が呪われていたことを知ったその日の夜、なぜか、私のことも蝕んだ呪い。
長時間かけて少しずつ、少しずつ心臓が握りつぶされる感覚は、今でも身の毛がよだつ。
「その結婚、今回は受け入れます!!」
応接室に飛び込んで、奪い取るように婚姻届にサインをした私をお父様は微笑ましく見つめている。
きっとまだ私たち二人がお互いに思い合っていると勘違いしているに違いない。
婚姻届には、すでにディル様のサインが書かれていた。
ディル様には、きっと好きな人がいる。
前回も、今回も結婚はお断りされてしまった。
『私、実は好きな方が出来てしまったんです……。だから、この結婚はなかったことにしてください』