この契約結婚、もうお断りしません~半年限定の結婚生活、嫌われ新妻は呪われ侯爵に溺愛される~
「あ、婚約者が呼んでいるので、そろそろ行かなくては。では、お幸せに。半年後の披露宴、楽しみにしているわ」
取り残された私たちと、少しの静寂。
ディル様に手を引かれ、会場を後にする。
美しいコバルトブルーのドレスが、少し早足になったせいで、フンワリと後方に膨らんだ。
「さあ、帰ろうか。楽しかった?」
「……はい! 夢が叶ってしまいました!」
「可愛い夢だね」
「そうでしょうか」
叶うはずがない夢だった。
やり直している今、あの時と違って、こうやって一緒に踊って、手を引かれて帰路についていることが、信じられないくらい幸せだ。
「あの、ところで……」
「…………ずっと見ていた。入学式の直前、初めてルシェを見たときから」
「え、ええ!?」
私が、ディル様のことを知ったのは、入学式の代表挨拶の時だ。
入学式の直前って、いったいいつ私を見たというのだろうか。
ディル様は、ここで初めていつものように明るく笑った。
「……今思えば、一目惚れだったんだと思う」
その割には、好きだと言っても返事もそこそこだったはず……。
混乱する私をよそに、馬車は走り出す。
馬車の中で、なぜか私はずっとディル様に抱きしめられていた。