先生の隣にいたかった

お母さんが仕事に行ってから、
どれくらい経っただろう。


流石にこのまま、何もしないのはいけない。


私は、少し散歩しようと思い、外に出た。

 
私の家は街中とは違って、
自然に囲まれた田舎だ。


だから、散歩をするのに最適だった。

でも、どんな時でも、
やっぱり先生の事を考えてしまう。




「…会いたい」




「七瀬さん?」 


「!?……先生?え、どうして、ここにいるんですか?」



私は、幻覚でも見えているのかと思った。


この休みの間、ずっと会いたいと思っていた人が、目の前に立っていたから。




「仕事で、近くを通って、そういえば、この辺に七瀬さんの家あるなって思っていたら、七瀬さんが、歩いてたって感じ?」



「あ〜、仕事…」


そう思って、ふと視線を自分に向けた。


まさか、先生に会えるなんて思ってなかったから、服装はスキニーに、トレーナーを着ただけだし、髪はボサホザだった。

本当に最悪だ。
もっと、オシャレすれば良かった。


一瞬、そんなことが頭によぎったけど、それよりも、先生に会えたことが嬉しくて、目元が熱くなった。



今、先生と二人。



周りに誰もいない。




それがただ嬉しくて、気づいた時には、
涙が頬を伝っていた。


私、先生の前で泣いてばっかりじゃん。
そう思うと、恥ずかしくなって、
トレーナーのフードを深く被った。



「どうした?」


そう言いながら、私の顔を覗こうとする先生は、とても優しい顔だった。


「え〜、またどうして泣いて」


「泣いてません」


先生にこれ以上、泣き顔は見せたくない。
だって、先生めっちゃ困ってるって顔をしてるから。


「先生、今から帰るんですか?」


「そうだな。いや、せっかくここまで来たし、おすすめの観光地、案内してよ」



観光地…。




「…橋」


「橋?」



「はい、結構有名な橋があるんですよ。ここにに来た観光客は、みんな行ってると思いますよ」



「橋…。うん、いいね。じゃあ、そこ行こ」



そう言うと、先生が近くに置いてあった車を持ってきて、助手席側の窓を開けた。




「早く乗って」



「…え?…私もですか?」



「今から予定とかあった?」



「いえ、ないですけど…」



「なら早く乗って」



いいの?
もし、バレたら、先生は教師でいられなくなるかもしれないんだよ?


先生がいない学校なんて、嫌だ。



そう思うなら、断ればいい。



でも、出来ないよ。
だって、もっと先生といたかったから。


それに、先生の事、もっと知りたいと思ったから。




「シートベルトつけた?」

「はい」


もう、こんなチャンス、
二度とないかもしれない。



気づくと私は、車に乗り込んでいた。




しばらく車内には、沈黙が続いた。



「緊張してる?」



「そ、そりゃ…しますよ」


するに決まってる。

だって、先生と二人きりだよ?
それに、先生が運転する車に乗ってるんだよ。


夢みたい。



こんな時間が、ずっと続けばいいのに。



「先生、質問とお願い…してもいいですか?」


「お願い?まぁ、俺に出来ることなら、いいよ」


…先生は彼女さんとかいるの?



なんて怖くて聞けない。


「…先生は、いつもこんなことするんですか?」



私だけじゃなくて、他の生徒も、ここに乗せたりするのだろうか。  




「こんなこと?あ〜、初めてだよ。助手席に生徒乗せたの」




笑いながら言ってる先生は、私を助手席に乗せることに、特に意味は、考えていないのかもしれない。



先生にとって、
私はただの生徒でしかないから。





「あ、だから、このことは内緒な」




「…はい」 



それでも、先生との秘密ができると、
それが特別な気がして、嬉しかった。


「で、お願いは?」


「あぁ、その…呼び捨てで呼んで欲しいです」


「…えっと、なんで?」


「特に理由はないんですけど…ダメですか?」


「いや、いいよ。呼び捨てね」




よかった。


断られたら気まずくなる。


それだけは、避けたかった。



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