先生の隣にいたかった
先生と出かけてから、日が経つのは早かった。
明日は入学式。
でも、これから寮で暮らすことになるから、
荷物を寮に置きに学校近くまで来ていた。
「いお、片付けできた?」
「うん」
「じゃあ、お母さんは
明日も仕事だから、帰るね。
ごめんね、明日の入学式に行けなくて」
「大丈夫だよ。仕事頑張ってね」
そして、お母さんは
明日仕事のため、家に帰った。
この辺りは、全く知らなかったため、
少し散歩に行こうとした時だった。
「ねね!君名前は?」
とても元気な声で、私に話しかけてきた。
「七瀬いおです」
「いおちゃんね。私は神崎莉乃、よろしくね」
「りのちゃん、よろしく」
「あのさ、いおって呼んでもいい?」
「うん、いいよ」
「じゃあ、私のことは莉乃って呼んで」
「うん」
雰囲気が、少し
咲に似ている気がして、話しやすかった。
そしてその後、
莉乃がこの街の案内をしてくれた。
学校は違うみたいだけど、
これから仲良くなれそうだった。
「で、いおは彼氏とかいるの?」
「え!?いないよ〜」
「じゃあ、好きな人は?」
その質問に対して、すぐ頭に浮かんだのは、
先生だった。
「へ〜、いるんだ」
「え!?いや、い、いないよ?」
「もう隠さなくてもいいって」
咲と同じで、すぐにバレてしまった。
私は、嘘がつけないということを今更気づいた。
「莉乃はいるの?」
「…私はもういないな〜」
「…もう?」
「うん…
でもね、みんなに反対されたし、
相手に迷惑をかけた恋は、したことあるよ」
そう言う莉乃は、どこか悲しそうだった。
「私でよければ、聞かせてくれる?」
別に言いたくなければ、それ以上は聞かない。でも、もっと莉乃を知りたいって思ったから。
「中学生の時。
私は……
先生に恋したんだ」
「え…」
私は耳を疑った。
だって、今私は、先生に恋をしているから。
「笑えるでしょ。
…誰にも応援されなかった。
親友だと思ってた子にも、反対された。
だから何度も何度も、
先生を好きになるのはやめようって思った。
でも…無理だった。
好きだって分かってから、
ずっと先生を追いかけてた。
そしたらさ、いつのまにか友達はみんな、
私から離れていった」
泣きそうになる莉乃。
でも、決して涙は流さないと、
自分に言い聞かせているようにも見えた。
「それでも、
私は…
先生がいたから卒業まで一人でも頑張れた。
いや、先生がいたから、
一人じゃないって思えたのかな。
でも、最後まで先生は、
私を生徒としてしか扱わなかった。
一人で無我夢中に走って、馬鹿みたいだよね。
だから、先生を忘れたくて
寮に入ったのもあるかな。
家にいると、
どうしても思い出しちゃうからね」
莉乃は、最後まで泣かなかった。
強いね。
きっと、私には想像もつかないぐらい、
辛かったんだよね。
「…後悔してない?」
「…うん、してないかな」
「そっか。
…私も話そうかな。
…聞いてくれる?」
「うん、もちろん」
莉乃は、私に過去を話してくれた。
それに私と同じで、先生に恋をしているから、莉乃には話してもいい、そんな気がした。
「高校入試の時にね、私は一目惚れしたんだ」
「え!?本当!?どんな人?」
「それがね
………先生なんだ」
「え…嘘…」
びっくりするよね。
「ずっと先生が頭から離れなくて、入試に受かった時、これからも先生といられるんだって思って、それがすごく嬉しくて、先生の前で、泣いちゃったんだ。
でも、先生鈍感だから、私が入試に受かって嬉しくて、泣いてるって思っちゃってさ」
だいぶ前のことだったけど、今でも鮮明に思い出せる。
好きな人との最初の思い出だったから。
その後、春休みに先生と観光地に行った。
でも、先生が内緒って言うから、
そのことは言わなかった。
「お互い、
先生に恋しちゃったんだね」
そう言いながら、笑う莉乃は、
やっぱり苦しそうに見えた。
さっき、後悔はないって言ったけど、
多分後悔してるんだと思う。
でも、それをあえて聞くのはやめておく。
莉乃にも自分のペースがある。
莉乃が話したい時まで、私は待つよ。
「いお、これから、
いろんなことがあると思う。
でも、私は応援する。
誰がなんて言おうと、
私はいおの味方だから。
それだけは忘れないでね」
「莉乃…。ありがとう」
「よし、じゃあ、この話は一旦終わり。
あ、でも、進展あったら教えてよね」
「うん」
莉乃、本当にありがとう。
でも、私はこのまま、
先生を好きでいていいのかな。
私はその不安に蓋をした。
それから私は、知らないうちに、
不安を溜め込むようになった。
その不安がどんどん大きくなり、
自分を自分で苦しめていたことも知らないで。