先生の隣にいたかった


「じゃあ、練習だけど、他のクラスの子も本気でやるみたいだから、私たちも頑張ろ」



放課後、私たちはグラウンドで、リレーの練習をしていた。


男子も練習をしていたみたいで、
最初に女子が走ることになっていた。


私たちのメンバーは、他のクラスの子達より早かったから、期待されていた。

だからか、中学の時を思い出して、
呼吸が少し不安定になっていた。




絶対に失敗はできない。

そう思えば思うほど、
周りの酸素が薄く感じる。



「いお?…大丈夫?」



私の異変に気づいた日向が、
声をかけてくれる。



「え、あ、うん」



「体調良くないなら、
やめといてもいいんだよ?」



「…大丈夫」



練習だ。


だから、大丈夫。


本番じゃない。


必死に自分に言い聞かせた。



そして、一番に走る子達が、
スタートラインに立った。



「よーい、スタート」




その合図とともに、一斉に走り出す。

初めに先頭に出たのは、日向だった。



その後、二番の紬ちゃんが、三番の香織ちゃんに一番でバトンを渡し、私に向かって、香織ちゃんが走ってくる。


そのすぐ後ろに、
他クラスの子が迫っていた。

それでも、香織ちゃんも先頭で走っていた。

そして私は、
バトンを一番で受け取り走り出した。





でも、後ろから走って来る子が、私を抜かす時、肩がぶつかり、私はそのまま転倒してしまった。



「いお!大丈夫!?」



日向が私の名前を呼んでいたけど、
私は返事をしたくても、出来なかった。


その時、昔みんなから言われた事が、
フラッシュバックしてきた。



(残念、一位取れると思ったんだけどな)

(どうして、最後にこけちゃうかな?)




あの時、私はみんなに期待されていた。


でも、私がその期待を裏切ってしまった。



「…どう…して……」




息がうまく吸えない。



苦しい。



「いお!…誰か、先生呼んで!」



日向が、必死に叫んでるのが分かった。


もうだめだ。


そう思った時、急に身体が宙に浮いた。





「…しょう…た?」




「喋らなくていい」





その言葉と共に、私の意識は遠のいた。


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