先生の隣にいたかった


私が目覚めたのは、知らない場所だった。


一定になる機械の音。


そして私は、酸素マスクをつけられていた。

おそらくここは病院だ。



意識がはっきりしてきた時、
私の視界に先生が入ってきた。



「…いお?分かる?」


返事をしたいけど、
上手く声が出なかったから、
一度だけ頷いた。



「はぁ…良かった…」



この様子から先生は、
よっぽど心配してくれたのだろう。



その後、病院の先生が来て、説明を受けた。

主治医いわく、私が病院に搬送された時、呼吸状態が不安定だったそうだ。

そして、私は数時間、眠っていたそうだ。


原因は、ストレスだと言う。

今日、様子見て問題なければ、明日には退院できるよ、とだけ言い病室から出て行った。

先生は、主治医に向かって一礼した。




「…先生」



「え、何?」



私の声が小さかったのか、
先生は私の近くまで来て、椅子に座った。



「私…また、みんなの期待を裏切っちゃいました」




自分でその事を言葉にすると、
悔しくて、また涙が出そうになる。



「…リレー?」

その言葉に、一度だけ頷いた。



「またって事は、前にもあったの?」



「…中学生の時です」


私は、先生に全て話した。
みんなの期待を裏切ってしまった事。

それから、少しトラウマになっていた。

でもまさか、こんなんになるなんて、思っていなかった。




自分が思っている何倍も、



大丈夫なんかじゃなかった。



「…いお。
たとえ中学生の時は、
そうだったかもしれない。


でも、今は違うんじゃない?」



「え…?」



「みんな、いおが眠っていた時間、ずっと心配してたよ。
それに、三浦さんなんて、泣きながらいおを助けてって言ってたよ。

誰も、いおが転けたことに対して、文句なんて言ってなかったよ」



日向…。

みんなは、
私が思っているような人たちじゃない。


そんなこと、わかっていたはずなのに。


でも、先生がそう言ってくれたから、
少し、気持ちが楽になった気がした。



「…それでもいおがもう出来ないって言うなら、無理してやらなくていい」



その言葉から、先生の優しさが伝わったけど、この優しさに甘えてしまったら、私はもうだめになる気がした。



それに、私は出来ることなら、
みんなと走りたい。




「…私、やります。…やりたいです」




「…なら頑張れ。

俺は、いおが決めたなら応援する」



先生は、いつもの優しい笑顔向けて、そう言ってくれた。



そしてその後、日向や翔太が、お見舞いに来てくれた。


日向は泣きながら、私が目覚めて良かったって言ってくれた。

翔太は、早く元気になれよって、
それだけだったけど、嬉しかった。


そして、日向には、
先生にも話した事を全て話した。


そしたら日向、泣きながら、気づいてあげられなくてごめんって言ったんだよね。

日向は、何も悪くないのに、
謝らせちゃった。


でも、私はみんなと走りたいって言った。

日向も、私もこの四人で、走りたいって言ってくれたから、頑張ってみようと思う。


中学生の時とは違う。


こんなにも、私を思ってくれる仲間がいる。



だから、私は堂々と走りたい。


そう思えるようになった。


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