先生の隣にいたかった


「…でもいおは、何も知らないで
…ただ先生を真っ直ぐに想っている。



そんないおを見ているのが…



…辛かった。




だから…
俺には、いおの恋を





応援できないって言ったんだ」





気づけば、私も泣いていた。


先生は私を好きじゃないことぐらい、
分かっていたはずなのに…


…なのに、こんなにも苦しい。


きっと私は、心のどこかで、先生にとって私は、特別なんじゃないかって、思い込んでいた。




想いを伝えてもいないのに、
振られてしまった。



「…ごめん。


…俺が、余計なこと聞いて…



勝手に苦しんで、





結局…いおを傷つけた」






「違う……





違うよ、翔太」






翔太のせいなんかじゃない。






「…私が間違ってたんだよ。
先生を好きになるなんて、おかしいよね」





そう言って、無理やり笑顔を作る。
こうでもしないと、私の中で全部崩れてしまいそうだったから。




なのに、翔太は優しくこう言ったんだ。




「無理に笑わなくてもいい。
俺のせいだって、怒ればいいんだよ?」



そんなの言えるわけないじゃん。

「…翔太は、何も悪くないよ」



私に、現実を見せてくれただけだから。




「…でもね、翔太」




こんなことを言えば、
翔太は私から離れていくだろうか。



…友達で、いられなくなるかもしれない。






それでも……


「…私、諦めたくないんだ。



…そうじゃない。


そうじゃなくて…




…諦められないんだと思う。


結果は分かっていても、
どうしても先生を
嫌いになることなんてできない」




自分でもびっくりするぐらい、
先生のことが好きだから。



「…だからごめんね」



これからも、
翔太を苦しめることになるかもしれない。



応援してとは言わない。

でも、許して欲しかった。






私が、先生を好きでいることを。



だから、せめて私が翔太にできることは、
謝ることだった。
今の私には、こんなことぐらいしか
出来なかった。



「…俺は苦しむいおを見たくない。

でも、それが、いおの答えなんでしょ?」






そうだよ。
これが私の答えだよ。





その問いにちゃんと目を見て頷いた。




「…だったらいいんじゃない?
そのかわり、俺も諦めないから」





「え!?」



予想外の言葉に驚き、
涙を止められなかったのが、
嘘のように止まった。



翔太と目が合って、しばらく沈黙の後、
私たちは顔を見合わせて笑った。



私たち、二人とも叶わないかもしれない恋に進んでいくんだ。
それがだんだんおかしく思えて、
二人で笑い合った。




「…ごめん、
そろそろ教室の鍵閉めてもいい?」




その時、
そう言いながら教室に入ってきたのは、
先生だった。




「…先生…」




一気に、教室は重たい空気に包まれた。



そして、しばらく沈黙が続いたけど、
その沈黙を破ったのは翔太だった。




「じゃあ、俺帰るわ」




「あ、うん。また来週」





「…いお…





俺……いおが思ってる以上に






…大好きだから」



「え!?」




「じゃあな」



そう言って、翔太は教室を出た。



そして、先生と二人きりになり、
先生が翔太に言ったことを思い出す。




(俺は七瀬のこと…好きじゃない)




思い出すだけで辛い。




「…じゃあ、私も帰ります」



「待って…」





そう言って、私を引き止める先生は、
私のことが好きじゃない。




でも、私は単純だから…
こんなことされると期待しちゃうじゃん。



「…先生…。


私、テスト頑張ります。
先生の授業、受けられるように」




私は、掴まれているその手を
そっと離して、教室を出た。



諦められないからこそ、
今、先生に優しくされるのが一番辛い。




それでも、大好きだから…




…想い続けるよ。



これからもずっと。






大好きな先生を。



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