先生の隣にいたかった
「テスト、お疲れ様でした。
今日の帰りに、クラスを発表をします」
そう言って、先生は教室を出た。
「いお!どうだった?」
そして、真っ先に私のところにきた日向。
この表情からして、
日向は出来たんだろうな。
「…分からないけど、
上に行けることを祈る」
「だね!」
その後の授業は、
あまり頭に入ってこなかった。
ずっと、クラス分けが気になっていた。
そんなことを考えているうちに、
あっという間に放課後になった。
「皆さん、席についてください」
そう言って入ってきたのは、
先生ではなく、緑川先生だった。
「クラスの発表は紙に書いているので、
出席番号順で取りに来てください」
先生がそう言うと、
順番に先生のところに紙を取りに行く。
「紙をもらった人から、帰っていいですよ」
私は、すぐに見ることができなかった。
結果を見ずにそのまま教室を出て、
屋上の方に向かって歩き出した。
先生は、この時間は
多分いないかもしれない。
それでも、少しの希望をかけて、
屋上まで走った。
勢いよくドアを開けると、
いないと思っていた先生が立っていた。
「…いお?」
「…先生」
「…おめでとう」
言われている意味がわからなかった。
すると、先生が私の持っていた紙に
指を刺した。
私は、そのまま紙を見ると
[上のクラス]
と書かれていた。
信じられなかった。
見間違いかと思った。
でも違う。
ちゃんと上のクラスと書かれていた。
「先生…」
私は先生の方に視線を移すと、
先生は頷いて微笑みながらもう一度、
「おめでとう」
って言ってくれた。
先生がくれる言葉はいつも温かい。
だから、私は信じられなかった。
翔太が言っていたこと。
先生は真剣な目で好きじゃないって
言った言葉を。
いや、そうじゃない。
きっと…
信じたくなかったんだと思う。
「…もうすぐ夏休みだね」
「…はい」
今までの夏休みは嬉しかった。
でも、先生に出会ってから会えない方が嫌で、休みなんてなくなればいいのに、と思うようになった。
少しでも長く、先生と一緒にいたくて。
でも、それは私だけが思っていることで、
先生はきっと何も思っていない。
それが、一番辛いはずなのに、
先生の隣にいると嬉しさの方が大きくなる。
「…先生は夏休みの予定、
決まってますか?」
「俺?…特に何もないな。いおは?」
「…私も特にないですね」
こうやって、どうでもいい話をしているだけなのに、先生と話しているだけで嬉しかった。
「…先生。
お願い…してもいいですか?」
「…何?」
絶対に無理だって分かってる。
分かっているけど、
少しの希望にかけてお願いしたかった。
「…花火…
一緒に見たいです」
「…ごめん…
…それは出来ない」
「…ですよね」
こうなるって分かっていたのに、辛かった。
「…知ってた?
ここから花火見えるんだよ」
「…そうなんですか?」
「…今年も俺は、ここで見るかな」
「え…?」
「…独り言。
気をつけて帰れよ」
そう言って、先生は中に入って行った。
先生はここで花火を見る。
なら、私が行けば一緒に見れるってこと?
でも、先生、一緒に見れないって
言ったのに。
この時の私には、意味がわからなかったけど、今思えば、これは先生の優しさだったのかもしれない。
花火を見る約束はできない。
私たちは教師と生徒だから。
でも、偶然会えば、誰も文句を言わない。
だから、私の願いを叶えるために、
ここにいるから、と遠回しに伝えてくれた。
先生は優しすぎるよ。
私のことが好きじゃないんだったら、
断ればいいのに。
違う…
私が想いを伝えてしまえば、
先生は断って、全てが終わる。
でも、そんなこと私にはできない。
私は先生が好きだから。
せめて、教師と生徒でもいいから、
今の関係でいたかった。
でも、私はこれをいいように利用して、
ずっと先生を苦しめていたことを
知らなかった。