先生の隣にいたかった
「久しぶり、翔太」
「久しぶり」
夏休みなんて、あっという間に過ぎて、
翔太と約束していた日になった。
「夏休み、終わっちゃうね」
「そうだな」
「サッカー、もう行ってるんでしょ?
どう?」
「…楽しい。
でも、いおと会えないからな〜」
「なにそれ」
こんなことで笑うのは、
久しぶりな気がした。
その後は、一緒にご飯を食べて、買い物したり、スイーツを食べたり。
時間が過ぎるのは、早かった。
「…いお、
花火…しない?」
「…花火…うん、いいね。したい!」
花火なんて、何年振りだろう。
最近は、祭りの花火を見るだけで、
していなかったから。
「…綺麗だね」
「うん」
初めは、
写真を撮ったりしてはしゃいでいた。
でも、それは私だけで、
翔太は、私に合わせているように見えた。
「…いお」
「なに?」
「ちょっといい?」
そう言って微笑む翔太は、
どこか悲しそうな感じがした。
翔太の隣に座ると、
翔太は私の手をそっと握った。
「翔太…?」
「ごめん…」
私は、翔太の手から離そうとしたけど、
できなかった。
少し、
本当に少しだけ、
震えている気がしたから。
「俺は…いおが好き。
でも…いおには他に好きな人がいる。
この先もずっと変わらないと思う。
…変わらないでしょ?」
その質問に、頷くことしかできなかった。
私は先生に振られても、
ずっと先生が好きだと思う。
「…だよね。でも…
それでも俺はいおが好きだと思う。
だから、
いおが辛い時、
苦しい時、
どこに行けばいいか分からない時、
誰かに頼りたい時、
なんでもいいから、俺のとこに来て。
罪悪感とか、そんなのいらないから」
「翔太…。泣かないで」
「…ごめん。
…俺、どうして泣いてんだろ」
そう言いながら、無理に笑おうとする翔太。
「ごめんね」
本当は、私といるのが一番辛いはずなのに、でも、私が翔太から離れられない。
日向や莉乃…伊月君と同じで
大好きだから。
私が、翔太を苦しめているんだね。
苦しめてごめんね。
なのに、離れられなくてごめんね。
両方の思いを込めて、私は翔太に謝った。
「…俺は、いつまでも待ってるから」
そう言いながら翔太は、
私の手をそっと離した。
「…帰ろ」
微笑む翔太は、
どこか晴れた表情をしている気がした。
翔太にとって、私の苦しい時、辛い時は、先生に振られた時のことを言っていたと思う。
でも、そんな時に
翔太に頼ることはできない。
翔太を余計、苦しめてしまうから。
だから、翔太は待ってるって言ってくれたけど、私はいけないよ。
ごめんね。
待たせても意味がないなら、
断ればいいのに…
翔太は優しいから、きっと、
迷惑じゃないって言う。
そんな、優しい翔太に甘えている自分が、
大嫌いだった。