先生の隣にいたかった
「いお、話って何?」
放課後、私と日向は教室に残っていた。
「単刀直入に言うね。
…私と翔太が仲良くしているところ、
見るの嫌?」
「え…」
これを日向にずっと聞きたかった。
私は、他の生徒と、
笑いながら話している先生を見るのが、
嫌だから。
「嫌じゃないよ。
…だって、友達でしょ?」
「…私は嫌だよ。
先生が、他の生徒と
笑いながら話しているのを見るのは。
…辛いよ。
…なのに日向は、なんとも思わない?」
私がそう言うと、日向は表情を曇らせた。
「…辛いんでしょ?
なのにどうして…
どうして言ってくれないの?
辛かったら辛いって、言えばいいんだよ?」
「…言えるわけないじゃん!
…言えないよ
…いおだけには…言えない」
こう言われることは、
心のどこかで分かっていた。
でも、いつかは言ってくれるんじゃないかって、期待していたから。
「…ごめん。
日向ごめんね」
「どうして、いおが謝るの?」
日向の本当の気持ちを
言えなくさせていたのは…私だったから。
「…私は翔太が好き。
でも、それ以上に
…いおが好きなんだよ?
…なのに、いおを傷つけるような言葉、
言えると思う?」
「でも、
ずっと心の中で葛藤してたんでしょ?
…言いたいことあるんでしょ?
日向のこと見てたらわかるよ。
私と翔太が話してる時、
たまに辛そうな表情……見せるじゃん」
日向は何も言わずに、
ただ首を横に振り続けた。
「いおが思ってるほど
…私は辛くなんてないよ。
それに…
いおの恋の方がよっぽど辛いでしょ?」
私が誰にも言えないのと同じで、
日向も言えないんだと思う。
日向は辛くないって言って、
自分に嘘をついているんだと思う。
でも、私も言えないから。
…誰にも言えないことがあるから、
これ以上、
日向を問い詰めることは出来なかった。
「日向…私は先生が好きだよ。
日向が翔太を思っているのと同じぐらい
…大好きだから」
これだけは、日向に知ってほしかった。
「…ありがとう、いお」
本当に私が言いたかったことは、
先生が好きだと言うことじゃない。
でも、日向はそれを分かってくれたと思う。
「帰ろっか」
「うん」
日向が言う(帰ろ)は、
いつもとなにも変わらなかった。
これからの私たちも、
なにも変わらないと思う。
親友のまま。
私は先生が好きで、
日向は翔太が好き。
言いたいことを言えないのに、
大丈夫って言い続けることも、
きっと変わらないと思う。
でも、いつか誰かに
打ち明けられる時がくるって信じてる。
私も日向も
…先生も。
自分が自分でいられると思える人に、
出会えると信じている。
私たちそれぞれが抱えている
心の叫びを暖かく、
優しく包み込んでくれる人に出会えると。
自分を傷つける嘘に、
気づいてくれる人に。