先生の隣にいたかった



「いお、大丈夫?」




「うん、大丈夫だよ」





涙が止まるまで、屋上にいた。
先生は言った通り、屋上には来なかった。




「もうすぐ、冬休みだよね。
いおは冬休みどうするの?」





「…久しぶりに、家に帰ろうかな」



 
冬休み。




私が家に帰ろうと思ったのは、さっきだった。





少し離れたかった。







誰からとかじゃなくて、




ここにいる自分から。

離れて、何も考えたくなかった。



何を考えても、苦しかったから。





大好きな人のことを考えると、
幸せなはずなのに、今の私は違った。



大切な人に、大好きな人に何も出来ない自分と、気持ちを伝えられない自分に腹が立った。





だから、そんな自分から逃げたかった。



こんなの間違っているかもしれない。






それでも、
今は何も考えない時間が欲しかった。





「じゃあ、冬休みは遊べないね」




「うん。ごめんね」






「全然大丈夫だよ。
また、いつでも遊べるからね」





もし、私から本当の気持ちを伝えれば、
日向も話してくれるだろうか。





日向の本当の気持ちを。





でも、私が自分の気持ちを口にしてしまえば、日向も翔太も伊月くんも傷つけてしまうことになる。




それだけはしたくなかった。







…そうじゃない。






ただ、できなかっただけ。




傷つけてまで、
自分の気持ちを吐き出したいとは
思わなかったから。








その後の授業も、
全然内容が入ってこず、1日が終わった。




「いお、またね」




「うん」




いつものように(またね)と言う日向に、
返事をする。



この(またね)は、また明日ね。と、またいつか。この二つの意味がある。


夢の中の先生は、またいつか。の(またね)と言った。

たとえ、夢でも先生の口からそんな言葉、
聞きたくなかった。


だから、教室に先生が来た時、
本当は嬉しかった。






まだ、先生は私の近くにいる。




そう思えただけで安心して、
余計涙が止められなかった。





でも、今は一番会いたくないとも思った。







先生が嫌いとか、









泣いてるのを見られるのが嫌とかじゃなくて、










今の私を見られるのが嫌だったから。




だから、屋上に行っても、
先生との思い出しかないから、
どうしても、今だけは行きたくなくなった。





色々考えても分からないのに、
考えてしまうから。




こうやって、私が大切な人から逃げていることに、全く気づけなかった。






向き合わないといけないと
頭では分かっていたはずなのに。


< 75 / 97 >

この作品をシェア

pagetop