先生の隣にいたかった
「どこ行くの?」
「ちょっと散歩」
「散歩
…それにしては、ずいぶんオシャレね」
「!?い、いいでしょ」
今日はいつもと違って、髪を緩く巻いて、化粧も少しして、服装も大人っぽくした。
先生には会えないって、わかっているけど、
もしかしたら、なんて少し期待していた。
先生との思い出の場所は、歩いていくには遠かったけど、歩いて行きたい気分だった。
15時頃に出たから、着く頃には、もう日が沈もうとしていた。
気温も下がり、とても寒かったから、
周りには誰もいなかった。
「寒いね」
「!?」
誰もいないはずだったのに、
突然声をかけられて驚いた。
「…久しぶり」
「…先生?」
その時、携帯に一件の通知が入った。
(メリークリスマス。
いおちゃんにとって、最高のクリスマスになりますように)
伊月君は、一体何をしたの?
どこまで、私の気持ちを知っていたの?
伊月君が、どうやって先生をここに呼んだのかはわからないけど、またここで会えるなんて思っていなかったから、嬉しかった。
嬉しかったから、
涙が溢れて止められなかった。
「…泣かないで」
そう言って、先生は私の隣まで歩いてきた。
「…先生…どうして?
どうしてここに来たんですか?」
「…それは言えない。
…でも、いおがいて、よかった」
私がいてよかった。
この言葉に込められている意味は、
分からなかった。
「なんか食べる?」
「…はい。
でも、近くにうどん屋さんしかないですよ」
「じゃあ、一緒に食べよ。温かいうどん」
そう言って、先生は車に乗り込んだ。
その後、私も助手席に乗り込んだ。
「…懐かしいね」
「はい」
先生は、私を初めて車に乗せた日をどう思っていたのだろうか。
どう思っていたとしても、私は(懐かしいね)と言ってくれたのが嬉しかった。
先生の中でも、
きっと思い出として残っていると思ったから。
「先生、写真…撮ってもいいですか?」
「写真!?俺を?」
「はい」
この思い出を記憶の中だけじゃなくて、
形として残しておきたかった。
「…別にいいけど、
誰かに見せるのはだめだよ」
「分かってます。誰にも見せません」
そう言って私は、
運転している先生を一枚撮った。
少し照れている先生が、可愛かった。
でも、本当に先生の横顔は綺麗だった。
入学式が終わって、放課後に二人で、
音を想像した日を思い出す。
その時に、初めて先生の横顔を見た。
あの時と、なにも変わらなかった。
先生の眼差しから、優しさが溢れていた。
その後、一緒にうどんを食べて、ドライブをして、また観光地の橋まで戻ってきた。
夜の橋はライトアップされていて、
とても綺麗だった。
そこで二人で写真も撮った。
橋で撮った写真は2枚。
でも、その2枚は同じ場所なのに、全然違った。
私と先生も変わらないけど、昼と夜の違いで、全てが変わったように見えた。
「…先生…ありがとうございます。
クリスマス、一緒に過ごせてよかったです」
「…俺もいおと過ごせてよかった。
楽しかったよ」
先生に、私の気持ちを伝えるなら、
今なのかもしれない。
それを伊月君に言われているように
…背中を押してくれたように思えた。
「…先生、
私、先生に伝えたかったことがあります。
……私は、ずっと先生のことが…」
「いお…それ以上はだめだよ。
…帰ろ?」
そう言って、先生は私の言葉を遮って、
背を向けて歩き出した。
先生は初めて、
私の言葉を最後まで聞かなかった。
私の言うことが分かったのか、
どうして遮ったのかは分からない。
一度遮られてしまうと、
口にするのが怖くなる。
「先生…大好きだよ…」
それでも想いを伝えたくて、
声に出しても、
その声が先生まで届くことはなかった。