先生の隣にいたかった

〜本当の気持ち〜

「久しぶり〜」




「久しぶり」




そう言って、日向と挨拶を交わす。



クリスマスの日以来、
先生とは一度も会っていなかった。





携帯の番号があったけど、
電話をする勇気もなかった。






あの日、先生はどうしてあんなにも泣いて、
私に謝ったのか。



いくら考えても分からなかった。





「いおちゃん、おはよう」




「おはよう、伊月」



「…願い叶った？」



「…うん。




お陰様で」



どうやって先生を呼んだのかは、分からないけど、きっと伊月君は、苦しかったと思う。



もし私が伊月君の立場だったら、
そんなことできないから。　







「ねぇ、聞いた？
うちらの学年の先生で、
一人移動するらしいよ」




どこからともなく、
そんな会話が耳に入ってきた。　





「…誰が移動するんだろうね」





日向も聞こえていたのか、
独り言のように呟いた。






「でも、柴咲先生はないでしょ」



「…どうして？」





「学年主任だよ？なかなか、移動になることはないんじゃない？」





そう言われて少し安心した。




先生が移動になったらなんて、
考えてもいなかったから。




私が卒業するまでは、
先生はここの学校にいると思っていた。




それが、当たり前なんかじゃないのに、
当たり前だと思っていた。








「あ、先生達きた」




日向が言ってすぐに、
私も日向が見ていた方に目を向けた。





「…先生？」




そんな私の声は、周りの女子達のざわつきによって掻き消された。




「いお、なんか
柴咲先生かっこよくなってない！？」




誰が見てもそう思う。



今までの髪型は、目を隠すような前髪だったのに、センター分けをしていた。



私は、入試の時に見た
先生の綺麗な目を忘れられなかった。



だから、前髪を無くしたことで、
先生の綺麗な目がはっきり見えた。




それでも、先生はなにも変わっていなかった。





いつもの先生だと思った。






…思いたかった。









でも、一つだけいつもと違った。








先生は、一切私を見なかった。








一度も目が合わないまま、
ホームルームが終わって、
そのまま教室を出てしまった。






どうして、見てくれないの。


その綺麗な目に、私を映してくれないの。






聞きたかった。






なにが先生を変えてしまったのか。





そう思った瞬間、
私は屋上に向かって走っていた。




勢いよく扉を開けたけど、
そこに先生の姿はなかった。




その後の、休み時間ごとに行っても、
先生は屋上に来てくれなかった。








どんなに待っても、






一度も来ることはなかった。





「先生は…私が









…嫌いですか？」





私が一人、そう呟いても
肯定も否定もしてくれない。



もう私の隣に、いつもの先生はいないから。




（いお）って呼んでくれる先生は、
いないから。







それが苦しくて、



辛くて、




私の中で熱いものが込み上げてくる。





「…先生…」





聞こえもしないのに、
こうやって先生と口にする。





涙が一つ、二つと頬を伝う。





私は屋上で、一人声を押し殺して泣いた。



どんなに泣いても、
泣き止むことなんてできなかった。




そして、この日以降、
私も屋上に行くことはなかった。