先生の隣にいたかった
「皆さん、合格おめでとうございます」
これから、ここが私の居場所になる。
そして、先生との思い出の場所に。
そんな淡い期待をし、胸にそっと閉まった。
でも、この時はまだ、全然分かっていなかった。
先生を好きになるというのは、
どうゆう事なのか。
ただ、好きだけで、乗り越えようとしていた。
「では、次は入学式でお会いしましょう」
その言葉と同時に、周りの人達はみんな、友達を作りを始めた。
こんな時でも、私は一人教室を出て、先生を探した。
話すことは決めている。
さっき、先生の前で大泣きして、迷惑をかけてしまったから。
「七瀬さん?」
「あ、先生…」
「どうした?」
さっきはすみません。
それだけなのに、なぜかうまく声が出ない。
自分でも今、びっくりするぐらい緊張している。
心臓の音が、先生に聞こえちゃうんじゃないかって思うぐらい、バクバクと鳴っていた。
「もう大丈夫?」
「え?」
「ほら、さっき、その、泣いてたから」
あぁ、先生はどれだけ優しいんだろうか。
迷惑とか思わないで、ただ心配してくれる。
「…すみませんでした」
「どうして謝るの?
合格して、泣いちゃうぐらい嬉しいのなんて、当たり前でしょ?」
それだけじゃないよ。
私はずっと、
先生に会いたかったんだよ。
でも、こんな事言ったらダメだよね。
わかってる。
「はい、ありがとうございます」
さっきよりは、緊張感が無くなった気がした。
きっと先生が、そうさせてくれたんだよね。
私はそんな先生のことが、
もっと好きになった。
「…では、失礼します」
「待って」
そう言いながら、先生は私の腕を掴んだ。
「ちょっと来て」
「え!?」
そして、そのまま手を引かれて、誰もいない教室に入った。
「せん…せい?」
私は、この状況を理解できなかった。
「あ、ごめん」
そう言って、先生は手を離した。
しばらく、沈黙が続いた。
「…ずっと気になってたんだ」
沈黙を破ったのは、先生だった。
「あの日、どうして帰っちゃったの?」
先生はきっと、2週間前のことを言っている。
「それは、その…」
「俺に話しあったんでしょ?聞くよ?なんでも聞いて」
言いたくなかったけど、笑顔でそんなこと言われたら、言いたくなる。
でも、こんなこと言ったら、
先生はきっと困ると思うよ。
「ただ…先生と話したかっただけです」
困らせるってわかっていたのに、気づけば先生に伝えていた。
「え?あ、…えっと…その」
やっぱり。
だから、言いたくなかったんだよ。
「…帰ります」
「あ、ありがとう」
「はい?」
「その、なんて返せばいいか分かんないけど、話したかったって言われて、嬉しかったから。だから…あ、ありがとうって…」
必死に伝えようとしている先生は、可愛いかった。
先生は、照れるとだんだん言葉が小さくなっていくんだね。
最後の方なんてほとんどボソボソ言っていて、聞こえなかった。
でも、嬉しいって思ってもらえただけで、私も嬉しくなった。
「…どうして笑うの?」
「いえ、なんでもありません。
では、失礼します」
「じゃあ、また入学式で」
「はい」
また、入学式に会えるんだ。
先生は教師として、また入学式で、と言ったけど、私はなぜか、次に会う約束をしたみたいで、特別に思えて、とても嬉しかった。
先生、大好きだよ。
初めて出会った日よりも、ずっと。
こんなこと、先生には言えないけど、
私は、心の中で何回も伝えた。