閉鎖夢物語

現実とも非現実とも言える世界

風が吹いている。地面は硬いが土が生い茂っており心地が良い。目を開けると、目の前には青色の空が果てしなく広がっていた。また夢かと思いつつも、肌身で感じる妙にリアルな感覚と自分自身がこれを夢として認知できることに違和感を感じた。

起き上がると、地平線まで広がる青々とした草と所々に生えている高さ10メートルほどの緑の葉が茂った木が見える。どうせ夢なのだからと、冷静だった。
立ち上がると、木を観察しようと思い木の根本まで足を運ぼうとした。本当に草と木しかなく、それくらいしかやることがない。草は8から10センチくらいの長さがほとんどだ。木の根本まであと5メートルほどになった時だった。

木の幹が左に曲がり、枝という枝が俺を薙ぎ払った。斜め上に飛ぶように、木の枝は下半身付近に集中し、その勢いで薙ぎ払われた俺は空中を飛び、15メートルほど吹っ飛んだ。地面に衝突した衝撃と、体前方が薙ぎ払われたせいで身体中が痛い。特に下半身が深刻な状況にあり、歩けないほどになっていた。これは本当に夢なのかと疑問に思う。自分の全感覚がこれほどまでに存在すると証明させられては、これが、今いる世界が本当に実在し、自分はこの世界に生きているのかと思わざるを得ない。しかし、あの木はなんなのだろうか。ハリーポッターに出てくる〝暴れ柳〟にそっくりではないか。あまりにも非現実的な出来事に、やはりこれは夢なのだと自分に言い聞かせ、無理矢理にでも自分を落ち着かせようとした。今すぐにでもこの痛さから解放されたい、今すぐにでも目が覚めて欲しい、そう思いながらも少しでも木から離れるために足を動かそうとした。あまりの激痛に絶叫した。声は虚しいまでに虚空を彷徨う。現実をかけ離れ事象が起き、逃れようのない痛みを伴い、また一段と体が重くなる。誰でもいいから助けて欲しい。そう切に思った。

….ッ…ッ…ッ…ッ…ッ…ッ。

かすかに足音のようなものが聞こえる。俺はあたりを見回した。後ろから何かの集団が走ってくる。そいつらが暴れ柳もどきの近くを通っても暴れ柳もどきは攻撃していない。俺は直感的にヤバいと感じたが、足は動かない。腕力だけでなんとか這いずりながら暴れ柳もどきの攻撃範囲内に入らないよう、無我夢中に逃げた。だが当然、追いつかれることなど分かりきっている。安全な隠れ場所もない。この後俺が奴らに食われることなど分かりきっている。だが、もし死んだら目が覚めるのではないか。この地獄のような世界を抜け出せるのではないかと思った。しかし、実際死ぬとなると尋常ではない恐怖がある。これが夢ではなく現実である可能性が少しでもあるからで余計に怖い。もう数秒で追いつかれると思うと、恐怖で四肢という四肢が震え上がる。心臓の鼓動はより早く、より大きくなり動物的本能が逃げる意欲を掻き立てる。

ドッドッドッドッドッドッ。

もう、すぐ近くまで来ている。あぁ、死んだ。そう思い心拍数が一気に下がったのを実感した。全てを覚悟して目を閉じる。後、1秒2秒で死ぬというのに随分時間が長く感じる。…これが死の直前の体感時間なのかと思った。

「安心してください。もう大丈夫です。」

女性の声が聞こえた。あぁ、そうだ。きっと夢が覚めたんだ。俺は目を開けた。目の前にはさっきの集団が走り去っていく姿が見える。もうかなり遠くに行って、よく見えないが犬のような姿をしてる。が、どうせ犬ではなく犬みたいな動物なのだろうと思った。夢は覚めていない…。絶望に呑まれた。あの犬もどきは今、俺の背後にいる奴から逃げているのだと俺は思った。だが安心はしていられない。何をされるか分かったものではないからだ。

「あ、ありがとうございます。」

俺はそう言った。得体の知れないやつにあれこれ話す気はない。謙虚な姿勢で最低限の事だけ喋ろうと思った。

「タイラントにやられたんですか。私の家に来れば直せるのでもう少し我慢して下さい。」

あの暴れ柳もどきはタイラントと言うのか…。彼女はそういうと、俺をおぶり馬に乗せた。馬の乗り心地は大して良くはなかった。俺は落ちないように前に座っている彼女につかまった。見ず知らずの俺を助けてくれる彼女は、この閉ざされた現実的でも非現実的でもある夢の世界で唯一頼れる人なのだと思った。彼女は騎士のセイバーのような格好をしていて、髪は茶髪のロングで体型は細めだったが顔は見えなかった。俺は彼女に尋ねた。

「あの、ここは何処ですか?」

「ポーリオス地方のアグリオス平原です。えーっと、アグリオス平原は侵入禁止区域のはずですがどうやってここまで来たんですか?私は調査隊なので問題はないですが…。」

ポーリオス地方?アグリオス平原?聞いたことない名前だ。夢なら何処か聞いたことのある場所を言うと思ったんだが…。しかも、日本語を話しているのに海外のような地名だ。などと思い質問に答えた。

「ここまでどうやってきたか俺もわからないんです。気付いたらここにいて…。」

「そうですか…。えっと、あなたの名前は何と言うのですか?もしかしたら何かわかるかも知れません。」

「加瀬 凛太郎です。」

「カセ リンタロウ…。分かりました。帰ったら少し調べてみます。」

「ありがとうございます…。」

それから10分ほど経った時だった。

「あ、見えてきました。あれが私の家があるマイヒィーア王国です。」

広く張り巡らされた外壁。その中にそびえ立つ城。遠くから見てもわかるほど大規模な都市だ。それは近づくにつれ思った以上に大規模だと言うことが分かった。コンクリートのような灰色の外壁に造られた門の近くには門番のような人たちがいる。紙に何か判子のようなものを押しているようだ。入国許可だろうか。かなりの列ができているため5分ほど並んだ。列の全員が空の大袋や何か入った大袋を持ち込んでいたため、商人か運搬人なのだろうと思った。ついに俺たちの番が来た。彼女は一度馬から降りて紙を取り出した。これは外出許可証だろうか。俺は彼女が降りてしまったため、馬の背中に手を伸ばしバランスを取っていた。彼女と門番が何か話し合っていた。門番が俺をチラチラ見ていたので俺のことを話しているのだろう。1分ほど話し合っていたが、すぐに終わった。どうやら中に入れるそうだ。

「行きましょう。」

彼女が俺の方を見た。初めて顔を見たがかなり美人だと思う。大きな茶色の目と長いまつ毛に少し小さい高い鼻、目の堀はそんなに深くはなく、どちらかと言うとアジア系の顔立ちだ。前髪は眉毛にかかるかくらいで長い髪の毛がよく似合っている。彼女はそう言うと、馬に乗り、俺は彼女につかまった。
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