私のお願い、届いてますか?
涙目の梨々香の嬉しさと戸惑いの混ざった表情が、俺自身の理性を掻き乱していく。

でも…。色々あったから…今日は、抑える。

そう思い直して、ぐっと堪える。

一度だけ、軽く唇を重ねて、もう一度梨々香の隣に横になって、抱き寄せた。

「…起きたら…色々話そう…。おやすみ…梨々香」

「…うん…。おやすみなさい」
















…っ…。

結構寝たか…。

思っていたよりも、すっきりと目が覚めて、さらに、自分の腕が軽くなっていることに気がつく。

梨々香、起きてるのか。

枕元のメガネを手に取って、かけながらベットを降りる。

扉を開けてリビングを覗いたけれど、梨々香の姿がなく、少し不安がよぎる。

ふと、机の上にメモが置いてあることに気がついた。

〝スーパーに行ってくるね。明るいから大丈夫。買ってきて欲しいものあったら、連絡してね!〟

マジか…。

たしかに、今お昼時で人も多いし、明るいから大丈夫だと思う。

だけど…。

小さく息を吐いて、メモをテーブルに置く。

寝てる俺に、気を遣ったのだろうか。

コーヒーを入れて、飲みながら、自分のリュックから取り出した、朝方破いた盗撮写真をパズルのように組み合わせる。

この写真の梨々香の写ってる角度って…道路挟んだ向こう側だよな。

…ん?なんだ、この黒っぽい線。

写真の隅の方に僅かに写っていた、黒っぽい線が気になった。

これ…窓のサッシか何かか?

じっと、写真を見つめて、はっとする。

この角度と、微妙に被ってる葉っぱ…

急いで服を着替えて、破った写真をポケットに入れて外に出る。

ちょうど写真に写っていたすぐ近くの場所に移動して、道路の向こう側を見渡す。

あった。…あのマンションって、確か…。

俺は、スマホを取り出して、梨々香にメールを打つ。

〝スーパーの隣でドーナツ買ってきて欲しい〟





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