私のお願い、届いてますか?
明日帰っちゃうなら、きっと秀人とも話たいこと沢山あるよね。

「あの…私そろそろ…」

「あら…帰っちゃうの?」

えっ…。

私の言葉を途中まで聞いて、寂しげな表情をしたお母さんに思わず驚いてしまった。

「は、はい…」

「母さん、梨々香疲れてると思うから」

ぎこちない返事の私をフォローしてくれた秀人。秀人の言葉に、お母さんも納得した様子で、今度は持ってきた袋の中から、小さな紙袋を取り出した。

「ゆっくりご飯食べれてないかと思って。梨々香さんに」

私に?

そっと袋を受け取ると、ひんやりとした冷たさが袋越しに伝わってきた。

「フルーツサンドよ」

ふふっと微笑む秀人のお母さんに、私も釣られて微笑む。

「…ありがとうございます」

気遣いが嬉しくて、少し目頭が熱くなった。紙袋のはじを、ぎゅっと握ってお辞儀をする。

「また、明日ね」

「はい…。また明日」

そう言って、そっとカーテンの向こうへと出て、集中治療室を後にした。


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