私のお願い、届いてますか？
ブーッ　ブーッ

デスクに向かってしばらく仕事をしていると、悠太くんから再び着信があった。

人気のない更衣室に入り、電話に出る。

『あっ、よかった繋がって』

「ごめんね…出れなくて」

『いや…大変な時かなとは思ってたから…。それより…研究まっしぐらの彼氏とは、どうなってんの？』

秀人のこと？どうなってるって…ああ、そうか、朝岡さんとの記事は本当だと思ってるんだ。

「…朝岡さんとのことはデタラメな記事で、秀人とは付き合ってるよ？」

『あっ、そうなんだ？にしても、梨々香、色々大変だな』

「…うん。でも、朝岡さんにも迷惑かかってると思うから…」

ふと、悠太くんが誤解してたってことは、色々な人がこの記事を本当のことだと信じ込んでしまっているのだという現実を知り、不安が押し寄せる。

朝岡さんのメールに、会社の方で出版社に訂正をお願いする方針だって書いてあったけど…広まった記事は無かったことにはならないと思う。

…秀人は…？秀人がこのことを知ったら…いろいろなことを誤解させてしまう…。

『梨々香？聞いてる？』

悠太くんの声で、ハッとして慌てて反応すると、

『大丈夫か？俺、そろそろ仕事の打ち合わせが始まるから電話切るけど、何かあったら頼って』

「あっ、うん…。わざわざ連絡くれてありがとう」

『おう。じゃあな』

悠太くんは明るくそう言うと、電話を切った。



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