私のお願い、届いてますか?
「…会社で、何か嫌なこと言われたりした?」

「…ううん」

〝腹黒い〟〝彼氏がかわいそう〟

更衣室での噂話が頭の中に蘇ってきたけれど、それを振り払うように、首を横に振る。

「…周りがどう思ってたとしても、俺はちゃんと分かってるから…」

「うん…ありがとう」

秀人の胸板から離れて、目に残った涙をぬぐって、顔を上げると、わ私をじっと見つめる秀人と目が合う。

「あっ…そうだ」

ふと、思い出したように秀人が立ち上がって、何かをリュックの中から探している。

「これ、教授から貰ったんだけど…梨々香にあげる」

差し出されたのは、高級チョコレートの手のひらサイズの箱。

これ、私がすごく好きなチョコ。

「…いいの?」

「うん」

「ありがとう…」

受け取って、箱をそっと開ける。4粒の宝石のようなチョコレートが並んでいて、自然と笑顔が溢れる。

食べたいけど、勿体無いから後で食べよう…。

そう思って、蓋を閉めかけると、秀人の手がすっと伸びてきて、一粒摘んだ。

そして、驚いている私の口の中へとチョコを入れた。

上品な甘さが、口の中へと溶け出していく。

「…色々と、疲れただろうから…」

照れ臭そうにそう言って、秀人はすっと立ち上がってキッチンヘ立って、自分の食べた夜ご飯の食器を洗い出した。

チョコの甘さと、秀人の優しい気遣いに、私の胸がぎゅーっと締め付けられる。






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