私のお願い、届いてますか?
「…ちなみに、先生って女性だから、その辺は安心かも」

「そうなの?」

てっきり、男性の先生だと思い込んでいたから、結構びっくり。理系って男性の先生のイメージがあるし。

「…どうしたい?」

街頭の灯りの下で、もう一度訪ねる秀人に、私は小さく頷いた。

「…一緒に行こうかな」

「ん。じゃあ、こっちから回って行こう。歩いて20分くらいだから」

秀人は、大通りの方へ出る道へと進んでいく。

「…いつもこの道通ってるんだね」

「ああ…うん。こっちの方が近いから」

私、本当は秀人の研究のこととか、大学院生の生活とかよく分かっていない。

特に会話を弾ませるわけでもなく、静かになりつつある夜の街中を歩いて、大学院へと向かった。

「…今日は、俺と先生だけだから、安心して」

設備のしっかりしている立派な建物の中に入って、エレベーター乗っていると、緊張している私にそう声をかけた秀人。

8階に着いて、秀人は私の前を歩いて、突き当たりの大きな重そうな扉をゆっくりと開けた。

機械音が微かに響いている静かな真っ白な空間に、黒い広々とした机が置かれていた。

ホワイトボードの影に、人の気配があり、私は、少し歩み寄って声をかけた。





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