偏差値高めで恋愛未経験の私が隣の席の男の子に溺愛されるお話〜春編 Spring 〜
翔央ちゃんに飲み物を渡して、取り敢えずの応急処置をしてからまだそう時間が経たない頃。


すっかり元気を取り戻した翔央ちゃんがとんでもないことを言ってきたのだ。


「そう言えば、楓織と如月は恋愛とか興味無いの?」


「うええ⁉︎」


ガッガガッガシャーン


私は驚き過ぎて、持っていたホッチキスを手から離してしまった。


盛大な音が教室に響き渡る。


動揺した私を見て、翔央ちゃんがニヤニヤしながら言ってきた。


「お、そんなに動揺するってことは、楓織さんもしかして好きな人とかいるんですかぁ〜?」


「い、いない!いないから!そもそも私、そういうのに興味無いし!」


と必死に言い返す。


本当のことだから、翔央ちゃんに分かってほしいけど…


「じゃじゃ、何であんなに動揺してたの?」


「それは、何の前触れも無かったのに、急に翔央ちゃんがそんなこと言い出すからだよ!さっきまであんなにボロボロだったのにっていうのもある。」


「なるほど納得。」


良かった。分かってくれた。


そう、私が安心していると。


「じゃあ、なんか付き合うとしたらこの人がいいなぁとかも無いの?」


「うん、ない。」


私が即答すると、近くで、実琉くんが碧依くんを止めていた。


「お、おい、碧依。お前っ早まるな!これは、想定内だったろ⁉︎」


「ああ、だが、これっぽっちも伝わってないのは想定外だ。」


「だからって、ホッチキスの芯の数を数えたりするな!気ぃ狂うぞ!」


碧依くんは、なんと、ホッチキスの芯の数を数えていたのだ。


私は、碧依くんの方を見ていなかったし、翔央ちゃんの誤解を解くためにとにかく必死だったから、いつからそんな状態になっていたのかわからない。


「碧依くん⁉︎何やってるの⁉︎えっ、何が原因?やっぱり熱中症だった?」


慌てる私を、いや未だに芯を数える碧依くんを翔央ちゃんと実琉くんは哀れなものを見る目で見つめていた。


その状況が数秒続いた後。


「楓織、今までは我慢してたけど、これからは本気で堕としてくから。覚悟しといてね。」


急に来た。びっくりした。


えっ、『おとす』?


私の頭の中では『おとす』を『落とす』や『墜とす』、『陥とす』などに変換されていく。


でも、どれも不吉な言葉。碧依くんが言いたいことはきっとそれじゃない。


なんだろうと考えている間に翔央ちゃんと実琉くんが碧依くんのことを2人がかりで褒めていた。


「そう、それよ如月!楓織にはそれぐらいで行かないと、何にもあの子には通じないから!」


「碧依、よくやった。これで、晴れてお前も奥手卒業だな。」


「五月蝿い。でも、感謝はする。主に、状況を作ってくれた桧山に対してだがな。」


「おい、俺は俺~!」


相変わらず、仲良いなぁと思いながら、私は考えることをやめた。





その日の帰り道。


「なぁ、楓織。」


たわいもない話をしていた時に急に真剣に碧依くんが私を呼んだ。


「なぁに、碧依くん。」


私が聞くと、驚くべきことを聞いてきた。


「なんで、実琉の呼び方が『実琉くん』になってるの。この前まで『夏方くん』だったじゃん。」


「え?って、私そんなに意識して呼んでる訳じゃないから、もしかしたら皆んなが『実琉』って呼んでるのを聞き慣れ過ぎていつの間にかそう呼んでたのかもしれないなぁ。」


「ふーん、そう。」


「でも、急にそんな事聞いて、どうしたの?」


碧依くんはなんで聞こうと思ったのだろう。純粋に気になった。


「ん?いや、楓織もしかして…と思ったから。でも、今考えたらそんな事ありえないよな。あいつには桧山が居るし…」


「碧依くんは、私が実琉くんって呼ぶの嫌なの?」


「いや、まぁ、嫌というか何というか…とにかく楓織、名前で呼んでいい男は俺と実琉だけにしてくれ。」


「?わ、わかった。善処する…」


「はぁ〜、もう楓織と他の男を近づけさせたくねぇ。」


「ん?碧依くんなんか言った?」


「いや、なんでもない。」


またなんかはぐらかされた。む〜。


ちょっとは碧依くんからはぐらかされないようになりたいな。


そう思うようになったキッカケができた。




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