偏差値高めで恋愛未経験の私が隣の席の男の子に溺愛されるお話〜春編 Spring 〜
入学式が始まって、後半に差し掛かった頃、俺たちの名前が呼ばれてスタンバイした。


相変わらず、校長先生の話は中学校でも長く、皆前列にも関わらず寝ている奴らが沢山いた。


せめて、前列は寝るなよ…と思いながら校長先生の話が終わるまで、隣に立っている女の子を見つめる。


名前は確か『白鳥さん』だっけ?俺らの名前が呼ばれた時にわかった。凄い綺麗な苗字だなぁ、と感心する。苗字相手に。名前も凄く綺麗なんだろうなぁ、と考えもする。


そう言えば、白鳥さんは凄く短い時間で台本を覚えていた。


あんなに短時間で覚えられる人は初めてみた。5回くらいしか読んでいなかったんだ。


本当にそれで大丈夫なのかと少し疑ってしまったが、彼女は天才だからそのくらい造作もないことなのだろう。


そうこうして、やっと話が終わった。これからが本番。俺らは、体育館の舞台に足を踏み出した。


そして、校長先生の前に立ち、お言葉を言う。そんな簡単なお仕事。


入りは白鳥さんからなので、彼女の言葉を待つ。全校生徒の拍手が止んだところで1回も噛んだり、詰まったりせず、ゆったりとした、流暢な言葉で喋り始めた。


俺は、呆気に取られた。なぜなら、彼女はその喋り方のまま、台本を助詞などもちろん、寸分違わず喋りきったのだ。


俺も負けてられないぞと喋ることには喋れたが、助詞まで完璧に喋るのは無理だった。


本当に白鳥さんは、天才なのだと痛感した。でも、彼女はそう言われるのは嫌そうだ。


だから、この言葉は胸のうちにしまっておく。


普段、勉強に無気力に取り組んでいても、高得点を取れていてそれで満足していた俺だったが、完全に火がついた。


勉強の面でも、恋の面でも。


俺はもうさっきの心の動揺で認めたのだ、『俺は、白鳥さんに一目惚れした』と。


だから、入学式後の授業のオリエンテーション中なんかもずっと彼女を観察していた。


彼女は、授業には全く興味の欠片もなさげだった。教科書を見て、目を少し見開いていたが、多分少な過ぎだと思ったのだろう。


そうこうしているうちに、終礼が終わって、皆んながバラバラと帰り始めた。そこで俺は、白鳥さんに声をかけてみたのだ。


「あのー、ちょっと待ってください。」


後から気づいたが、これだと誰に言っているのかわからないじゃないか。まぁ、声をかけられた気はするだろう。ほら、こっち向いた。


「えっと〜、な、何か私に用事ですか?」


多分、白鳥さんは俺の名前まで覚えてないだろう。名前が呼ばれた時、彼女は凄く集中していたから。


それに、隣の席だったってことも気づいてなさそうだな。


入学式が終わった後は疲れたのか、退屈だったのか、ぼーっとしていたから。


だから、ここは自己紹介も兼ねて。


「白鳥さん?だっけ、俺は如月碧依。一応あなたの隣の席だから、仲良くしたいな〜と思って。」


相手の名前を確認する風にして、自分の名前も紹介。それに理由を付け加えるというとても緻密に計算されたこのフレーズ。さあどうだ。


「あ、あ〜、ってなんで私の名前知ってるんですか⁉︎」


どうやら結構抜けているらしい。そんなところもまた可愛い。だけど、いじわるしたくなる。


「なんでって、お言葉のときに呼ばれてたじゃないですか。それ覚えてるだけですよ。1位で受かったのに結構抜けてるんですね?」


流石にいじわるし過ぎたか。好感度下げられないといいんだけど。内心、俺は結構焦った。


「あ〜、そうなの。私結構抜けてるらしいの。自覚ないからわかんないんだけどね。あ、用事あるからもう帰るね!それじゃあね!」


…逃げられてしまった。


やっぱ、こういうタイプの人間は苦手そうだな。抜けてることも自覚無しか。


普通の女子だと『いや、絶対あるだろこいつ』っていうのがあるけど、白鳥さんにそんな感情は一切湧かない。


どちらかというと、知ってました、って感情になる。


それにしても、やっぱり好感度下がったかなぁ。ま、明日の反応見たらわかるっしょ。


でも、見向きもされなかったら俺一生立ち直れないかもしれないな。


ははっ、あんなに女子に興味がなかった俺が今日1日だけで、こんなに虜にされるなんて。中学校はなかなか楽しめそうだ。


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