君が月に帰るまで

「すごーい、これなんて言うの?」

「ショートケーキだよ」

「イチゴがなくて、みかんの缶詰でごめんなさいね」

ゲームを終え、ふたりで一緒にいただきますをして食べはじめる。甘さを控えめにしたクリームが美味しい。

向田が何か知っているのだろうか。はじめは疑問に思ったが、確かめる術ももない。そうこうしているうちに17時になり、向田はストールを真知子巻きとやらにし、どこからか見つけたサングラスをかけて裏口から帰っていった。かえって目立つのでは? はじめはそう思ったが、向田が楽しそうなので、放っておいた。

月の入りまであと少し。自室に戻ろうとするゆめを呼びとめて、廊下で立ったままはじめは話し始めた。

「ゆめ、朔さんに聞いたんだけど……、地球の人に恋をしたから謹慎処分を受けたってのは本当?」

「あぁ……うん。そう」

ゆめは床に目を落として立ち尽くしている。

「何か、協力できることない? ゆめの応援したい。だって、まだどうなるかわかんないんだろ?」

「……そうだね。じゃあ目瞑ってくれる?」

目を瞑る? そう言われてはじめはわけもわからず目を瞑った。

ふわっといい香りがしたと思うと、唇に柔らかいものがかすった。

──え?

パッと目を開けても誰もいない。ゆめはどこ? そう思うと、足音だけが廊下をかけていき、離れへ続くドアが誰もいないのに勢いよくバタンと閉まった。







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