君が月に帰るまで
『大王様としては、地球謹慎期間が短くなったとしても願いは叶えるおつもりですね』
『短縮になった原因は、月夜にもあるのだから、願いはきこう』
『承知いたしました』
朔の想念はすーっと消えた。
大王は深く息をつく。娘の人生なのだ、大王とてどうにかできるものではない。所詮自分で決めなければ、あとで誰かを責め続ける。そうなれば本人のためにもならない。大王はそう思いながらも、月夜が傷つくのを見るのも辛い。
親心は複雑だと思いながら、妃のことを思い出す。早世してしまった妃。もともとは大王の世話人であったが、その優しさに触れ、いつのまにか恋に堕ちていた。
身分相違と周囲に言われつつも、先代王のはからいにより夫婦となることができた。だから、大王としても娘が好きな人と一緒になれたらよいと思っていた。それがたとえ地球人であったとしても……。
地球見学6日目
ゆめは朝日が眩しくて目を覚ました。丸窓から入った朝日が優しく部屋を照らしている。時刻は6時30分。まだここにいられるということは、父親からの命令や、違反は確認されていないということだろう。
昨日、姿を消してはじめに口付けた。そのことを思い出して、ぽっと顔が赤らむ。柔らかかった唇を思い出して、頭がくらっとする。
姿を消すと、地球鏡に映らない。そう言った満月の言葉。たぶん本当なのだろう。あれを月から見られていれば、即帰還は免れない。まだここにいるということは見られていないということ。
はじめにあんなこと言われて、イラッとした。キスはやけを起こした自分の暴走でもあったが、キスしたい衝動をもう止められなかった。
縁側の窓を開けると、風が心地よく入ってくる。思わず目を瞑って大きく伸びをした。昨日は一日中家の中にいたから、体が鈍っている。
少しだけ。公園までくらいなら、歩いてもいいだろうと、ワンピースに着替えて家を出て公園を目指す。