君が月に帰るまで
変身する姿を見られた訳ではない。それなら月の入りまでになんとかここを出られれば……。

翡翠の勾玉で必死に満月に呼びかけるが、反応がない。こういう時に限って連絡がとれないのだからと呆れる。朔からも連絡がない。ん……? なんかおかしい。

***

ピンポーンピンポーン──

何度も繰り返し押されるインターホンの音。目を覚ますとまだ7時前。こんなに朝早くから誰?

ドンドンドンと玄関の戸が叩かれる。
はじめは慌ててパジャマのまま下へ降りていく。カメラで確認すると、夏樹の姿があった。

「おーい!! はじめ!! 起きてるか? ゆめいる??」

朝からゆめに用なの? 近所迷惑にもなるのであわててドアを開けると、夏樹が飛び込んできた。

「わぁ! ちょっと……!!」

「おい、ゆめは? 家にいるか?」

あわてて祖父の部屋を見にいくと、ゆめの姿はない。玄関に靴もない。

「ゆめ、いないかも……」

「やっぱり……さっき、公園散歩してたらゆめらしき人が、女の人と話してて、途中で気分悪くなったのか倒れ込んで、車に乗せられてったんだよ!! まさかと思って追いかけたけど見失っちゃって……誘拐されたのかも!?」「えぇっ、ゆっ誘拐!!?」

「SNS見たら、こんな動画の配信予告があがってて」

夏樹のスマホをのぞく。動画のタイトルは『SNSで話題の消えた女の子緊急出演!! 消失と変身。ふたつの能力を本日夕方、生披露!!』

「なに、これ……」

「なぁ、警察に通報したほうがいいんじゃねぇか? ゆめには連絡できるのかよ」

「あ、警察……えっと、どうしよう。ゆめはスマホ持ってないし……朔さんに連絡できるかな、でも連絡先知らないし……」

ウロウロとリビングを歩き回っていると、いきなり夏樹に張り倒された。
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