君が月に帰るまで
「バカヤロー!! しっかりしろよ!! 命に関わるかもしれないんだろ!?」
ハッとして頭がすーっと冷静になる。
「そうだね。ちょっと作戦立てる」
「俺も協力するから」
「塾は?」
「んなこと言ってられっか!!」
おじゃまします!! と大きな声で夏樹は言いながら靴を脱ぐとドカドカと家に入ってきた。なんか思わず笑えてしまった。
しばらくするとかえでもやってきて、リビングでゆめ救出のための作戦会議が始まった。
「さっきの動画、生配信が始まってる。これ、ゆめじゃねぇか?」
部屋の中にベッドがひとつ。ソファにテレビもある。カメラはソファに座った女の子の背中を捉えている。顔はみえないけど間違いない、ゆめだ。
「とにかく、警察に連絡しましょう」
「そうだな、所詮俺たちじゃやることに限界がある」
「うん……、そうだね警察に連絡……」
ピンポーン
インターホンが鳴って、カメラを確認すると朔の姿があった。あわてて玄関へ行くとこちらも真っ青。何が起こったかはわかっているようだ。
「こちらは朔さん。ゆめの保護者」
簡単に夏樹とかえでに紹介をする。
「朔さん、ゆめの居場所はわかりましたか?」
「それがまだ……ああ、どこに行ってしまわれたのでしょう」
「やっぱり警察に……」
とかえでか言うと「それはいけません!」と朔。
「えっなんで……」
かえでが不思議そうに首を傾げる。
「私たちには追われる身なんです!!」
「ええっ!?」
夏樹とかえでの声が重なる。はじめは追われる身!? とびっくりする。
「実は、お嬢さまは敵に命を狙われていて、執事の私と一時避難しにきたのです。いま、事件になれば、居場所がバレてしまって命が危ない。それだけは避けなくては……」
朔の演技に、思わず吹き出しそうになるのを堪える。夏樹とかえでは信じたかどうかわからないが、警察に連絡するのは思い止まった。