君が月に帰るまで
「とっ、とにかく、連れ戻さないと。動画配信はどうなってるかな」
はじめが言うと、かえでがタブレットを取り出した。
動画配信はまだ続いていて、殺風景な部屋と、ゆめの後ろ姿を映していた。
「この場所ってマンションかな、それともビルの一室か?」
夏樹が身を乗り出してタブレットを覗き込む。ちょっと後ろに身を引いて、頬を赤くしたかえでを見て、あれ? とはじめは首を傾げた。
なんかいつもと違う?
「なあ、マンションにしてはシンプルすぎだろ」
夏樹の声にハッとする。病室、といってもいいくらいの部屋だ。
「そうねやけに殺風景な気がする」
「これ病院かもな」
夏樹が腕を組んでそうつぶやく。
「そうか病院か。確かにドアが普通より厚いね。特殊なドアにみえる。窓は……これ鉄格子だ」
はじめもタブレットに釘付けになる。スマホで動画を検索していたかえでが口を開く。
「この人の動画はこれしかないけど、お気に入りに入ってる動画は医療系が多いね。個人の特定ができればいいんだけど……調べてみるね」
「他のSNSで名前検索してみる。夏樹はこの近くで精神科のある病院検索してくれる? 隔離病棟かも」
はじめは自分のスマホを取り出して、検索をし始めた。
「なるほど。わかった。車のナンバーはわかんなかったけど、多分三文字だったから世田谷か八王子。とりあえず世田谷区内の精神科のある病院を探してみるわ」
それぞれのやることをまとめていく。はたと気がつく朔のこと。すっかり存在を忘れてた。
ぱっと顔を上げると悲しそうな顔。すみません、ほんと。そうだ、朔さんに聞けば……。
「ごめん朔さん、ちょっとこっちきてください」
「わかりました」
夏樹とかえでは不思議そうな顔をしたが、自分の調べるものに手一杯で、声をかけることができないようだった。
はじめと朔はリビングを出て離れの方の廊下に移動する。
「朔さんの力があれば、わかります? ゆめは今どこにいますか? ちきゅ
う……鏡? でしたっけ? それ使ってもらえませんか?」
「それが、なぜかよく見えないそうで……月にも確認していますが、なんとも……」
「ええっ!? 朔さんもわからない? じゃあ……ゆめと連絡は取れますか?」
「それが、姫さまが倒れたあたりはまだ声をかけられたのですが、もうそちらもうまくいかなくなって……」
「そうですか……目星をつけたらすぐ出発します。タクシー乗せてもらえますか?」
「もちろんです、外で待機してますね」リビングに戻ると、夏樹とかえでがタブレットに釘付けになっていた。
「はじめ、また動画配信はじまったぞ」
「ゆめちゃん、あんまり動いてないわね」
「ねぇ、これ……」
動画は部屋の後方から撮っているようで、ゆめの背中を捉えている。ソファに座ってるゆめは……船を漕いでいた。