君が月に帰るまで


「そんな……」

「ゆめちゃん、私の下準備手伝ってくれる? 家でできること一緒にやろう」

かえでになだめられて、するするとその場に座りむと、小さくうなづいた。それじゃ! とはじめが手を打つとそれぞれが準備に取りかかった。

「あのー、ぼっちゃま」

向田が自室へ行こうと、廊下に出たはじめに声をかける。

「どうしたの向田さん」

「あの、さっきのお話の西野弥生さんに心当たりがあって……」

「えっ!? そうなの?」

「はい、確かにT病院のお嬢さまではあると思うのですが、その……以前にもはな様がいらした時に、あの……見てしまったようでその……」

「えっ!? なに? 向田さん……」

「いえ、あのなんでもありません!! 私、夕食の買い物にいってきますね」

バタバタと向田は買い物に行ってしまった。何も言わなかったけど、向田は何か
に気がついていたんだ。西野弥生は、はなの何を見たんだろう。もし変身するところを見た、またはそうだと推測される状況を知っているとすれば、作戦変えておかないと……。

はじめは慌てて祖父のDIY専用倉庫に行って、ガサガサと材料を漁り始めた。***

ゆめは、和室で詩穂に服を脱いで渡していた。

「すごい量の服ね」
「はい、服は困らなかったです」

はじめの母親のタンスには溢れるほど若い頃の洋服や着物が入っていた。それを見た詩穂が息をつく。

「あの……詩穂さんは、零さんとご結婚なさるのですか」
「うーん、そうだね。まだ先だと思うけど、そうなれたらいいなと思ってるよ」

着替えながら詩穂はそう言うと、ワンピースの後ろのファスナーを閉めた。

「"はな"は、結婚したんだって? 零に聞いた」

詩穂も特例でゆめのことや、姉のことを話しても大丈夫な人。
そう思うと、少し胸のつかえがとれる。

「はい、幸せそうですよ」
「……よかった」
「あの……姉とは何かあったのですか?」
「どうして?」
「先日、姉と零さんと私とでお話した時に、詩穂と話すことなんかないって言ってたので……」

「あははっ、そうなんだ。まあたしかに。実はあの時、はなと私で零を取り合って、私と零がくっついたの。だから話すことなんかなくて当然よ」
「ええーっ!!」

ゆめはワンピースを選ぶ手を思わず止めた。そんなことがあったなんて知らなかった。零が言った話は気を使った嘘だったのか?
< 120 / 138 >

この作品をシェア

pagetop