君が月に帰るまで
「さあ、マジックショーをはじめましょう!!」
かえでにアナウンスを頼むと、まだ帰っていなかった子どもたちや迎えにきた親たちが、ミニコロシアムに集まってきた。
かえでの司会で、ショーが始まる。西野はど真ん中の1番いい位置につけていた。時刻は18時15分を回った。
「さあ! 本日のメインイベント!? マジックショーのお時間です!!
目を凝らしてよーくご覧あれ!!
さあ、ウサギ変身疑惑のあるこのお嬢さま!! 本当に変身するのでしょうか?」
例の机の上には大きな箱があり、その中に詩穂が入った。
「さあ、みんなで唱えましょう!! メケメケ、テケテケ、とんちんかーん」
あまりの呪文に、ザワザワして誰もついてきてないけど助手の零は、詩穂の入った箱の側面をパッと開けた。零、さっき練習した分なのに、うまくやっている。
すると中には、かわいらしいウサギの姿だけ。詩穂の姿はない。オーッ!! とかすごーい!! という声があちこちで上がる。詩穂はどこへいったのか。ウサギを抱いたまま、零がもう一度、箱の側面を閉じる。
「さあ、次はどうなるか?? みなさんで唱えましょう! メケメケテケテケとんちんかーん」
2回目ともなると、慣れた人は一緒に呪文を唱えた。
すると、箱の上の蓋がバッと開いて、またもや詩穂が登場した。拍手喝采、雨あられ。最後はもう一度箱を閉めて呪文を唱え、出てきたウサギとツーショット。
「ごめんなさい、たぶんマジックの練習を見られてしまっただけだと思います。お騒がせしましたー!!」
詩穂が、みんなに叫んで手を振った。
歓声をバックに動画配信も終わるところだった。見てる人もけっこういたみたいだし、T病院の後援があったと伝えてあるし、なんとか丸くおさまったかな。わらわらと参加者が帰る中、西野弥生が項垂れて帰って行くのが見えた。たぶん西野も雪と同じで、本当に変身する姿を見たわけじゃないのだろう。
とにかく長縄大会が無事に終わり、ゆめの事件も火消しはできた。明日ゆめが帰れば姿を見られることもない。騒動はすぐ収束するだろう。
そう胸をなでおろしながら、片付けをしてみんなで今年家に帰る。
「なぁ、ゆめは? あいついないぜ?」
夏樹が不思議そうに言う。
「ああ、調子悪いからって言って先に帰ったよ。部屋で休むからみんなによろしくって」
「……そっか」
夏樹は納得がいっていないようだったが、黙って歩くだけだった。当のゆめはというと、詩穂さんの腕の中ですうすう寝息を立てている。